人事のホンネ

神奈川県

2020シーズン【第12回 神奈川県庁】(前編)
一番の仕事は「県民のため」 責任感あるアグレッシブな人求む!

神奈川県 総務局組織人材部人事課 課長 河鍋章(かわなべ・あきら)さん

2019年03月05日

 人気企業の採用担当者を直撃する「人事のホンネ」2020シーズンの最終回、第12弾は神奈川県庁です。これまで延べ80の企業・団体を取り上げてきましたが、自治体は初登場! 採用試験、求める人材など、民間とはどう違うのでしょう。意外に共通点も多いようです。(編集長・木之本敬介)

■2019年卒採用
 ──2019年卒採用はいかがでしたか。
 ここ2~3年とは違いました。過去5年ほどは、受験者が多く、合格者も多かった一方、辞退者も多く合格者の3割を超えていました。自治体を掛け持ち受験して他に行ってしまうのが原因です。神奈川県、埼玉県、千葉県、横浜市などは試験日が同じため、掛け持ちできませんが、国家公務員一般職や東京都、東京の特別区(23区)は別日程で受けられるため、そちらに流れてしまいました。
 2019年卒採用では、2次試験の受験者が少なく、合格数も少なくなっています。公務員採用も「売り手市場」が進み、学生はいくつも掛け持ちしていたのが、受ける自治体を絞る人が増えたのではないかという印象を持っています。

 ──神奈川県の内定を辞退して民間企業に行く人はいますか。
 面接のときに併願状況を必ず聞きますが、民間企業を受けている人は少なく、だいたい公務員との併願です。「今回の試験に落ちたらどうするの?」と聞くと「来年も受ける」、もしくは神奈川県の後に市町村を受ける人たちが多く、総じて公務員志望であると感じています。
 民間の採用日程が早まったので、平成22~26年度(2011~2014年度)は4月に1次試験を実施する「早期チャレンジ」を行い、6月には内定を出していました。かなり良い人たちに合格を出せたんですが、採用時には半分くらいに減ってしまい、方法を変更しました。

 ――今は「秋季チャレンジ」を実施していますね。
 翌平成27(2015)年度から始めました。民間企業志望だった人、海外留学から帰国した人、資格試験に挑戦していた人のほか、試験日に風邪をひいたとか、いろんな理由で就活、公務員受験を続けている人もいます。その人たちに受験してもらい、その結果、私たちが採用したかった人を採れればお互いにウィンウィンです。
 時期は10月の第3週ごろです。平成30(2018)年度夏実施のⅠ種行政職の倍率は6倍ほどですが、秋季チャレンジはかなり高く15倍くらいです。

 ──民間の内定式が終わった後ですね。
 今回の例だと、民間の内定をもらったけれど、先輩から「結婚・出産を経て長く働き続けにくい」と聞き、「公務員だったら長く働ける」と受けに来た人がいました。また、「民間でバリバリ働いているけれども、結婚・出産後は今の働き方はできないから」という人もいました。

■採用実績
 ──多様な職種がありますが、専門的な技術職ではない「Ⅰ種試験」行政職の採用実績を教えてください。
 2019年卒の入庁者はまだ確定していませんが、夏の試験は合格者164人、秋季チャレンジは49人でした。
 2018年卒の夏の試験は計198人合格して入庁は133 人、秋季は66人合格して入ったのは57人。計190人が2018年4月に入庁しました。理系・文系の区別はなく、院卒は8人です。理系学生は農業、土木、水産、建築などの技術職も受けます。

 ──女性は何人くらいですか。
 190人のうち女性は83人、約44%です。行政職全体の女性の割合は約34%。全職員でもほぼ同様です。
 ひと昔前の公務員のように、与えられた仕事を淡々とこなせばいい時代ではありません。自ら進んでやっていく意欲のある人なら男女は関係ありません。
 ただ、1次の筆記試験に比べて面接は女性の比率が高くなる傾向があります。面接では意欲がなかなか出てこない男性が多いのに対し、女性はしっかりハキハキとしゃべる人が多い。言葉が多ければいいわけではありませんが、自分の考え方、公務員になったらやりたいことをきちんと話せる人がいいですね。

 ──190人のうち、神奈川県出身者は?
 データはありませんが、神奈川出身もしくは神奈川の大学に通っていた人が多いですね。住所が神奈川県の人は119人います。神奈川県、東京都、東京の特別区の全部に合格した人が最後は何で選んでいるかというと、やはり住所だと思います。最終的には自分が住んでいるところで働きたい人が多いのだと思います。
 国家公務員や会社員と違うのは、転居を伴うような転勤がないことです。東京都だとある島の勤務もありません。出産・育児を視野に入れた人や、神奈川で生まれ育って他県に行ったけれども将来的には故郷に落ち着きたい人が受けに来ます。
 神奈川県は30歳まで受けられるので、年齢的に他を受けられなかった人も来ます。

県民と話せない人はダメ キャリア採用も昇進試験もなし

■公務員って?
 ──公務員試験は何度もチャレンジする人が多いですよね。
 はい。1次試験ではどういう考えでまた受けたのか分かりませんが、2次試験では考え方を必ず確認します。民間に行くとか、他の働き方もあるのに「なぜ神奈川県庁なのか」を聞きます。答えは「どうしても公務員になりたい」「神奈川県で生まれ育ったので地元の公務員になりたい」「大学進学で神奈川に来て、今後も神奈川に住みたいと思った」といったところですね。
 漫然と「公務員になりたい」というだけの人は厳しい。一度落ちたけれども自分を見つめ直して「本当に神奈川県で何をしたいか」を志望動機でしっかり言ってくれれば受かります。面接で見せる本人の意欲次第です。ただ、中には「公務員に向いていないな」と思う人もいます。

 ──「公務員に向いていない人」とは?
 他者と関係を築くのが苦手な人など、組織の中で仕事ができない人は難しいですね。それと、行政の一番の仕事は「県民のために働く」こと。県民と話せない人はダメです。事務的な仕事がバリバリできても県民の間に入って話せないと。県民対応ができることは絶対条件です。

 ──県民と直接対話をする機会は多いのですか。
 技術職や免許資格職は別ですが、行政職は入庁後10年の間に3カ所ほど違う部署を経験してキャリアアップしてもらいます。たとえば最初に本庁に配属された人は2カ所目は出先機関で、最初に出先に配属された人は次は本庁。そうすると必ず出先を経験します。出先機関で一番多い県税事務所はまさに県民と対話する場所です。また、土木事務所では許認可関連の事業者対応、用地買収の対応もあります。

 ――国家公務員との違いは?
 国家公務員は「キャリアシステム」があることです。キャリア採用で入った人とノンキャリアの人では入庁後の動きが全然違います。キャリアは30代で課長補佐になり、その後は課長などを経て最高到達者は事務次官ですよね。神奈川県にキャリアシステムはありません。「高卒程度」のⅢ種、「大卒程度」のⅠ種がありますが、Ⅲ種の人は先に入ってⅠ種の人が大学にいる4年間に先に業務に就いているだけで、その先は大卒と全く変わりません。Ⅲ種の人が幹部になることもあります。局長になる人もいます。

 ──他県はどうなんでしょう?
 神奈川県は昇進試験も一切ないので珍しいのかもしれません。横浜市には係長になる登用試験があります。「複線型人事」という方式で、他の市町村でも取り入れているところは多くあります。昔は「吏員(りいん)試験」といいましたが、受かった人は上を目指し、受からない人は今のところでやっていきます。30歳など一定の年齢で全員受けることができるようです。東京都にも何段階かの昇進試験があると思います。

 ──神奈川県の場合、選挙で選ぶ知事は無理でも、副知事まではすべての職員がなれる可能性があるんですね。
 一時期、管理職登用試験をしていましたが、「管理職にはなりたくない」という人が増えて受験者が少なくなってしまいました。「管理職になってほしい人=管理職になりたい人」ではないことも分かり、管理職登用試験は6年でやめました。

「先進的な取り組み」打ち出す テレワーク導入など「働き方改革」も

■求める人材
 ──求める人材は?
 ぜひ採用したいのは、目的意識を持ち、アグレッシブな人です。といっても組織に調和しない人は厳しいですが。なおかつ公務員なので、「責任感」が大事です。政治活動をしてはいけない、副業(アルバイト)をしてはいけない、公務で知り得た秘密の保持など地方公務員法の縛りがあります。営利活動も制限されます。いろいろな制約を知ったうえで、それを守る責任感を持てる人でないといけません。

 ──目的意識や責任感は分かりますが、公務員には「安心・安定」のイメージがあるので「アグレッシブ」は意外です。
 公務員の基本は法律・法令にのっとって事務を着実にこなすことですが、それだけでいいわけではありません。知事は、神奈川県の施策として「こういうことをすべきだ」とかなり声に出して言っています。代表例が「未病」の改善。未病とは「病気と健康の間」の状態ですが、未病を改善するために何をすべきか神奈川県独特の施策を打ち出しています。
 これからもっとアグレッシブな人を採用して、県の施策を積極的に打ち出していきたい。すでに若手がプロジェクトチームをつくり、いろんなアイデアを出していますし、私たち年長者の考えに若手が「それは違うんじゃないですか」と言える風土もつくっています。神奈川県の成功は神奈川独自の施策をいかに打ち出せるかにかかっています。そういう意味でアグレッシブな人が必要なんです。
 「働き方改革」も進めています。総労働時間を減らすだけでなく、テレワークやサテライトオフィスも導入しています。全職員にモバイルパソコンを配ってテレワークができるように整えます。

 ──「アグレッシブ」は知事の影響ですか。
 まずは時代の流れだと思います。これからは超高齢化、人口減少社会ですから、職員数も減っていきます。そうすると少数精鋭で、一人ひとりの資質を高めないと対応できません。時代の要請でもあり、知事が先進的な施策を広く職員から求めているので、人材育成でもそれに沿った形で意欲的な職員を育てていこうとしています。

 ──「アグレッシブ」な人を採るために工夫していることはありますか。
 知事自ら採用説明会で県の施策を積極的に話しています。「全国に先駆けて先進的な取り組みをしている」という言い方が学生に響いているようです。
 県の採用ホームページでは、施策に加えて「働き方改革」への取り組みもアピールしています。アグレッシブな人材にどれだけつながるかは分かりませんが、「テレワークができるんだ」「1人に1台モバイルパソコンがあるんだ」と知って神奈川県を受ける人もいると思うので。
後編に続く

(写真・小暮誠)

みなさんに一言!

 人口減少社会は待ったなしにやってきます。神奈川県は「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」に国から選定されました。今後、市町村はフルセットの業務を諦めたり、県と業務を共同化したりするかもしれない。その中で県としての立ち位置をしっかりし、持続可能な神奈川県をつくっていくために、神奈川のために働きたい人、公務員になってやりたいことがある人、意欲の高いアグレッシブな人材が必要です。常日ごろから神奈川県の情報に触れておくことが、採用への近道だと思います。

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 「いのち輝くマグネット神奈川」を基本理念とし、地域の魅力を最大限に生かし、人々が何度も訪れてみたい、住んでみたいと思うような、人を引きつける神奈川、県民のいのちを輝かせ、誰もが元気で長生きできる神奈川の実現を目指しています。また、県民、NPO、企業、団体、市町村などと情報や目的を共有しながら、神奈川の総力を結集し、「未病の改善による健康長寿」の取り組みや特区を活用したロボットとの共生などのような独自の施策により、神奈川モデルを創っていきます。