一色清の世の中ウオッチ 略歴

2013年08月15日

来年度は景気が悪くなる (第9回)

8%に引き上げてそのままお休み

 消費増税はあるのかどうか、あるとすると景気はどうなるのか、気になります。企業の採用数にも関係してきますので、就活生も大いに気にしないといけないところです。

 12日に4-6月の国内総生産(GDP)が発表されました。年率換算で実質2.6%の伸びでした。安倍首相は、予定通り消費税を来年4月から8%に引き上げるかどうかを、この期間のGDPの伸び率を見て決めることにしています。ただ、この数字はまだ粗い第一次速報なので、正式には9月9日発表の第二次速報を見てから決めることになります。
 現時点では、2.6%をもとに考えてみましょう。2.6%というのは微妙な数字です。1―3月期には年率換算で4.1%の伸びでしたから、やや減速しています。シンクタンクの予想は3%半ばあたりが多かったので、予想よりよくない数字という受け止めもあります。とはいえ、政府の目標は実質成長率2%ですから、目標を上回っているのも間違いありません。首相の心は千々に乱れているのではないでしょうか。

 首相の選択肢は三つあります。一つは、予定通りに引き上げる、もう一つは先延ばしする、そしてもう一つは、1%ずつマイルドに引き上げる、の三つです。周りの議論は白熱していますが、私は結局、予定通りに引き上げるしかないと思います。

 まず、最悪は先延ばしすることです。先延ばしすることで、日本国の財政に対する信用に傷がつきます。景気が悪くないのに約束を守れないということは、「日本はこれ以上の消費増税はできない。財政破綻に突き進む」と思われても仕方ありません。日本国は1000兆円を超える借金を抱えています。その返済に疑問符がつくと、借金(大半が国債)の金利が跳ね上がります。たくさんの金利がつかないと、誰も国にお金を貸さなくなる、つまり国債を買わなくなるからです。金利が跳ね上がると、景気が悪くなりますし、国は利子の支払いが大変になって他の予算を大幅に削らないといけなくなります。銀行も打撃を受けます。持っている国債の価値が下がって資産が減りますので、経営が危うくなります。すぐに必ず金利が跳ね上がるとは言えませんが、その可能性は十分にあるわけで、こんな危ない橋は渡れないと思います。

 マイルドに引き上げる案も予定をひっくり返すほどの魅力はありません。法律を改正しないといけませんし、5年間毎年、消費税率引き上げの事務作業をするのは大変です。1%くらいなら下請けに負担させようと思う不埒な大企業が出ることも想像できます。

 決めたことはぶれずにやり遂げるということが、三つの選択肢の中で最良の選択でしょう。でも、これは三つの選択肢の中では最良というだけで、景気には大きな影響を与えると思います。アベノミクスはもともと「気持ち」に働きかけたもので、長く好景気が続く構造に作り替えたものではありません。「気持ち」がしぼむとあっという間に元に戻りかねない弱い景気です。消費増税は「気持ち」をしぼませるきっかけに十分なりえると思います。

 もうひとつ言及すると、今回の消費増税は、1989年、1997年の過去二度の消費増税とは根本的に違う性質のものだという点です。過去二度の消費増税の名目は「直接税から間接税へ」というものでした。つまり、所得税などの直接税の引き上げは限界にきているし、直接税は税逃れが多いし、景気の変動で金額が大きく動くし、問題が多い。ここは欧州のように間接税の比重を大きくしようということでした。そのため、消費増税をするとともにその前後で所得税を減税していました。しかし、今回は財政再建が名目で、減税とセットではありません。だから、景気への影響は、過去二度よりも大きいはずです。

 私が考える結論を言いますと、2013年度は駆け込み需要もあって景気はもつでしょうが、2014年度はかなり悪くなると思います。再びマイナス成長に陥る可能性もあります。アベノミクスは目的を遂げずに失速するのではないでしょうか。
 2015年、2016年の入社を考えている就活生には、あまりいい結論ではありませんが、財政破綻や巨大バブルの崩壊に比べると、ずっといいと考えてください。

 ちなみに、2015年10月に10%に引き上げるという二段目の消費税ロケットですが、こちらには火がつかない可能性が高いと思います。二段目はおそらく2014年10-12月の成長率を見て決めるということになるでしょうが、この時期の景気はよくないと見ていますので、10%への引き上げは今度こそ先延ばしとなるのではないでしょうか。日本の消費税は8%でひとまずお休みになるというのが私の予想です。

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