ニュースのポイント
東芝の最先端技術がライバルの韓国メーカーに不正に流出する事件がありました。経済のグローバル化に伴い、同様の技術流出事件はたびたび起こっており、日本経済の競争力低下にもつながる深刻な問題です。企業の置かれている厳しい状況を理解するとともに、これを機に日本の製造業の技術力の高さにもあらためて注目してみてください。
今日取り上げるのは、1面の「東芝、韓国企業を提訴/技術流出の疑い/提携先元社員 逮捕」です。総合面(2面)に「時時刻刻/奪われる 虎の子技術」、経済面(8面)に「フラッシュメモリー/スマホ向け需要 利益の柱」も載っています。
記事の内容は――東芝の主力製品であるデータ記憶媒体の研究データが韓国メーカーに不正に流出した事件で、警視庁は東芝と業務提携している米半導体大手「サンディスク」の日本人元技術者(52)を不正競争防止法違反(営業秘密開示)の疑いで逮捕した。東芝のデータは韓国メーカーで広く共有されていたという。東芝は元技術者と流出先の半導体大手「SKハイニックス」を相手取り損害賠償を求める訴訟を起こした。東芝は「損害規模は1000億円をくだらない」と説明している。元技術者はサン社の社員だった2007~08年、東芝の開発施設からデータを入手し、転職先のSK社に渡した疑い。先端技術の情報流出をめぐっては、官民が防衛策に力を入れているが追いついていないのが実態だ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
今回流出したのは、スマートフォンなどの記憶装置として普及しているNAND型フラッシュメモリーの最先端技術に関するデータです。フラッシュメモリーは1980年代に東芝が開発。みなさんにもおなじみのデジタルカメラの画像保存用「SDカード」や「USBメモリー」などに使われ、最近はスマホ向けなどで需要が急増しています。米調査会社によると、世界の市場規模は2013年の258億ドル(約2兆6000億円)から16年には302億円に拡大。東芝のシェアは32%と、35%で首位のサムスン電子と競り合っています。大容量で高性能のメモリーをつくる加工技術は「東芝が上」と言われていますが、技術流出でその差が縮まれば今後の競争力にも影響すると心配されています。
過去の技術情報流出については、2面の表にデンソー、ヤマザキマザック、新日鉄住金、ヨシツカ精機の例が出ています。ただ技術流出の捜査は立件が難しいうえに、技術の進歩が速くて陳腐化してしまうため企業が裁判に訴えるケースはまれ。表面化したのは氷山の一角で、多くは泣き寝入りしているようです。
背景には、経済のグローバル化にともない、これまで国内工場にとどまっていた中核技術が海外の工場でも使われるようになり海外企業の目に触れやすくなったことや、韓国・中国メーカーの台頭で日本メーカーのリストラが進み、優秀な技術者が海外の企業に転職するケースが増えてきたという構造的な事情があります。情報目当てに大金で引き抜かれる人もいます。このため、不正競争防止法を適用しやすく改正したり、企業も情報管理を厳しくするなど対策を講じていますが、完全に封じるのは難しいのが実態です。
就活生のみなさんは、志望する企業が厳しい国際競争にさらされ戦っている実情をまず理解しましょう。一方でこうした事件は、日本企業の高い技術力ゆえに起きています。今日の経済面(11面)には「国際特許出願 パナが首位奪還/トップ10にシャープ、トヨタ」という記事も載っています。特許の多くは先端技術です。こうしたニュースに登場するメーカーの得意分野などについても調べてみましょう。
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