ニュースのポイント
友好国の指導者や市民を盗聴するのは正しいことなのか――。政府の圧力を受けながらも、米英の情報機関の実態をスクープした英紙ガーディアンの編集長が朝日新聞のインタビューで、政府との攻防の舞台裏などを語りました。私たち一人ひとりの安全やプライバシーに関わる問題ですが、とくにマスコミ志望の人は報道機関の役割や責任について考えてみてください。
今日取り上げるのは、総合面(2面)の「言論への圧力 公益にならない/英紙ガーディアン編集長に聞く/国の傍受拡大 議論必要」と、国際面(6面)の「英当局の圧力 屈せず報道」です。
記事の内容は――米国家安全保障局(NSA)のスノーデン元契約職員による暴露を情報源として、ガーディアンは昨年6月以降、NSAと英政府通信本部(GCHQ)による通信傍受(ぼうじゅ)をスクープしてきた。英国の保守系の新聞からは「『英国の敵』を助ける新聞」と批判されるが、アラン・ラスブリッジャー編集長は一連の報道が「国の安全保障やプライバシーを超えた多くの問題を提起した」と公益性を強調。一般市民まで巻き込んだ傍受活動は正当化されうるのか、まず議論があるべきで、その材料提供こそジャーナリズムがすべきことだと主張する。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
スノーデン氏の内部告発で明らかになったこの問題、覚えていますか? まず米国政府(NSA)が電話会社の通話記録数百万件を毎日収集していたと、ガーディアンが報道。米独仏などのメデイアも加わり、日本を含む米国にある38の大使館や代表部の通信、ドイツのメルケル首相の携帯電話、欧州連合(EU)の電話・メールなどを、米英の情報機関が盗聴・傍受していた疑惑が発覚し、「米国史上最大級の機密流出」とも言われています。オバマ大統領はNSAの改革を約束するなど、いまだに対応に追われています。スノーデン氏はロシアに政治亡命しました。
このインタビューで、ガーディアンの編集長はとても大事なことを言っています。一つは、私たちにも身近な街中の監視カメラについてです。
「もし、あらゆる監視カメラの映像が、我々に一切何も告げられないまま、音声も含めて顔認識の技術で1カ所に集められ、5年間保存されているとしたらどうか、ということだろう。いつでも、どんな人物でも、過去5年間どこにいたのかを追跡することができる。それは、議論なしに現状から著しく逸脱することだ」
日本でも最近、事件を起こして逃走した容疑者が、監視カメラの映像をもとに居場所を突き止められて逮捕されるケースが多くなりました。監視カメラは、テロの容疑者を追跡したりテロを未然に防いだりすることにも役に立つでしょう。でも、すべてが保存されたら私たち一人ひとりの情報も把握され、プライバシーはないに等しくなるかもしれません。ガーディアンの編集長は、そうなったら身の毛がよだつと考える人もいれば、安全のためには自由を犠牲にしてもいいと考える人もいるだろうとしたうえで、「しかし、何の説明もなしにそうした活動をすることはできないはず」と言います。安全保障とプライバシーをどう両立させるか、という大きな問題でもあるのです。
一方で、ガーディアンはスノーデン氏から入手した情報をすべてあからさまにしたわけではありません。編集長は、オバマ政権の高官から「君たちは立派な新聞として注意と責任を持って行動した」と言われたといい、何を報じるべきかを判断するのはあくまで報道機関自身の責任であるべきだと語りました。それだけ新聞やテレビなどジャーナリズムの責任は極めて重いのです。判断にあたってのキーワードは「公益」、つまりみんなのためになるのか、ということです。マスコミ志望の人は、公益とは何かや、日本の特定秘密保護法との関係について考えてみましょう。また、記事に登場する「ペンタゴン・ペーパーズ事件」についても、調べてみてください。
※朝日新聞デジタルの無料会員は1日3本の記事全文を、有料会員になればすべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。ぜひ登録してください。