2014年02月05日

「感謝される仕事」地図というインフラをつくる

テーマ:経済

ニュースのポイント

 日本の隅から隅まで足を使って住宅地図をつくっている会社があります。地図情報大手のゼンリン(北九州市)。東日本大震災のときには、消えた家を一軒一軒確認し、いま復興する街の姿を記録しています。そこで働く人の話には、仕事の誇り、やりがい、感謝される喜び……働く意味が詰まっています。

 今日取り上げるのは、オピニオン面(15面)の「リレーおぴにおん 老舗の流儀⑭/ゼンリン『釜石デポ』長 下山紀夫さん/仮設地図を復興の記録に」です。
 記事の内容は――大震災から5カ月後の2011年8月に岩手県釜石市のゼンリン調査拠点の責任者になった下山さんは、震災前の住宅地図を手に現地調査に出た。ここも×、ここも×……。かつて家があった場所に印をつけながら、なんて残酷なことをしているんだと自問。しかし被災の記録を正確に残し、復興する街の姿を記録することが地図屋である自分がやらねばならないことと思い至った。今はグーグルやヤフーにも地図データを提供するが、住宅地図調査のやり方は昔から変わらない。一軒ずつ歩いて回り、土地の形状、表札の名前、番地などの情報を「足」で集める。都市部は毎年、それ以外も2~5年に1度は調査し更新している。同社は、自治体や警察の要望に応え、震災半年後に5万戸超の全仮設住宅を調べた。1戸1戸訪ね名前と被災前の居住地を聞き取る。緊張したが、温かく迎えられ、「おたくの地図で、親戚がどこの仮設にいるかわかった」と感謝されたことも。下山さんは入社35年。うち17年は北海道にいて一から地図を作り上げた。自分が作った地図は、この家の人には良くしてもらったなあと当時のことがよみがえり、いくらながめていても飽きないという。被災地の地図をそんな気持ちでながめられる日が早く来てほしいと願う。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 一部地域に特化して同様の地図を刊行している会社は他にもありますが、離島を含む全市町村を網羅しているのはゼンリンだけ。住宅地図は、今では郵便、宅配をはじめ警察、消防など行政サービスに欠かせない「社会インフラ」です。住宅地図の実地調査に投入する調査員の数は、1年間でのべ28万人。毎日800人の調査員が日本のどこかの街角を調査している計算になります。バス停の位置、信号機の有無、交差点の名称、駅や主要目標物の建て替えなど、小さな町の変化も見落としません。

 下山さんは週刊誌アエラ(2013年12月2日号)の記事で「大切なのは地図を手に小まめに集落を歩き、住民の声を聴くこと。町の変化は『足を使って稼ぐ』のがプロのセオリーなんです」と話しています。地震発生直後、下山さんは自ら釜石行きを志願。家族と離れ離れの単身赴任の生活ですが、これまで住宅地図の調査員として日本各地を歩いてきた経験を生かし、定年までの会社員人生を被災地で過ごそうと考えているそうです。「この土地にいる限り、地図を手に被災地の記録を残す一員として働くことができる。一度は空白となった地図に人々の営みが戻る日まで、東北を歩き続けたいと思っています」。

 ゼンリンは、かつては紙の住宅地図の販売が主力でしたが、1980年代から官公庁向けの電子地図づくりに乗りだし、90年代以降はカーナビ向けのデータ提供で大きなシェアを握って業績を伸ばしてきました。今の売上高の8割はカーナビやスマートフォン、インターネット向け地図データの販売です。地図データを利用したサービスの増加で、ここ数年売上高は堅調です。媒体は変わっても、基本的な情報を持っている強みが生きている好例です。

 みなさんがスマホで気軽に見る地図情報もゼンリンの調査員が足で一つひとつ調べたものです。どんな時代になっても、どんな最先端の機器ができても、仕事の本質は変わらないのかもしれません。下山さんの言葉から、働く意味を考えてみてください。

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