ニュースのポイント
企業は、時代とともに多かれ少なかれ変化を求められます。うまく変われた企業は生き残り、変われなかった企業は淘汰(とうた)される厳しい世界です。今日は、主力商品の需要が急減する中、まったく異なる業態に変貌を遂げた富士フイルムを取り上げます。
今日取り上げるのは、11面の特集「年代ごとに振り返る 天野祐吉さんCMコラム」です。先日亡くなった天野さんは、テレビCMを通じて見える世の中を軽妙かつ鋭く批評した方で、朝日新聞に29年間コラムを連載しました。たびたび題材にしたのが、富士フイルムの「お正月を写そう」のCM。2000年のコラムで、このCMが生んだ流行語「それなりに」が20年後のCMで「チョーそれなりに」と使われたことから「この20年で変わったものと言えば、〝チョー〟くらいしかないんだよねと、このCMはいまという言葉貧乏の時代を、それなりに笑っているんだろうか」と書きました。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
このCMは今でも続く人気シリーズですが、当の富士フイルムはこの間に大変身を遂げました。
富士フイルムと聞いて何をイメージしますか? みなさんより上の世代なら、レンズ付きフィルム「写ルンです」や写真フィルムでしょうが、若い人は松田聖子さん、小泉今日子さんが出演した化粧品のCMを思い浮かべるかもしれません。
社名に掲げている商品が、デジタル化の波の中、世の中であまり必要とされなくなってしまう――。企業にとっては致命的ともいえる時代の変化です。そんな中、富士フイルムは積極的にデジタル化への対応を進めました。フィルム事業の縮小で一時業績が悪化しましたが、2004年に「第2の創業」を掲げ、フィルムで培った技術を生かせる新分野に注力し、液晶テレビ用の保護フィルムは世界シェアの8割を握る主力事業に成長。最近は医療分野に力を入れ、国内外の医療関連メーカーを次々に買収し、フィルムの劣化を防ぐ技術を生かして化粧品事業にも参入、2006年には社名を変更し「富士写真フイルム」から「写真」の2文字を消しました。2000年に売上高の2割を占めていた写真フィルム事業は、2010年度には1%に縮小する一方、売上高自体は1.5倍に増えました。
明暗を分けたのが米イーストマン・コダックです。かつて世界のフィルム市場のシェアを富士フイルムと争った2大メーカーでしたが、伝統のフィルム事業にこだわり続けてデジタル化の波に乗り遅れ、昨年破綻しました(先月、ニューヨーク証券取引所に再上場を発表)。このとき、富士フイルムホールディングスの古森重隆社長(現会長)は「時代が流れる中で、コアビジネスを失ったとき、乗り越えることに成功した会社と乗り越えられなかった会社がある。当社は事業を多角化することで乗り越えてきた」とコメントしました。
昨晩放送されたNHKスペシャル「密着!ユニクロ」で、ファーストリテイリングの柳井正社長はキーワードとして「変革か死か(Change or Die)」を挙げ、変革によって世界一のアパレル企業をめざすと語りました。企業研究の一環として、こうした企業の変化、変革についても調べてみてください。企業の変遷や事業領域については、多くが採用ホームページに載せていますが、投資家(IR)情報のページを見ると、さらに詳しく知ることができます。
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