ニュースのポイント
トヨタと日立のトップが、ベースアップ(ベア)に前向きな考えを表明しました。ベアは、企業の賃金体系全体を底上げするもの。安倍政権が打ち出した法人減税に応える動きで、実現すれば「企業が潤う→賃金を上げる→個人消費増→モノが売れる→生産が増える→企業が潤う」という経済の好循環が生まれ、持続的な成長を狙うアベノミクスのシナリオが実現に近づきます。この機会に、日本経済の大きな流れをおさらいしましょう。
今日取り上げるのは、1面の「トヨタ・日立、ベア前向き/政労使会議、トップ表明」と経済面8面の「企業減税 賃上げ後押し/ベア検討/波及は不透明」です。
記事の内容は――トヨタ自動車の豊田章男社長と日立製作所の川村隆会長が、政府と労働界、経済界の代表による「政労使会議」に出席後、来年の春闘でのベースアップ実施を前向きに検討する考えを表明した。実施すればともにリーマン・ショック前の2008年以来6年ぶり。賃上げをアベノミクスの好循環につなげたい安倍晋三首相にとっては、願ったりの展開だ。ベアが実施されれば、働き手にとっては賃金が安定的に増えると期待できる。ただ業績に左右されるボーナスと違い、一度上げたら下げるのが難しく、賃上げに前向きな企業でもベアには慎重だ。春闘の相場づくりをリードする2社の動きは、賃上げを求める安倍政権には追い風だが、産業界全体に波及するかは見通せない。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
日本では1990年代にバブル経済が崩壊し、不良債権問題による金融危機で景気低迷が始まりました。2000年代に入ると、小泉純一郎政権の構造改革などにより「戦後最長の景気拡大」(2002年1月~08年2月)を記録。企業のもうけは2倍近く増え、過去最高益を出す企業が続出しました。ところがこの間に、働く人の平均年収は1割も減りました。成長率が低く、消費も盛り上がらなかったため、企業は給料を減らしたり非正規雇用を増やしたりするなどリストラによって利益を出したのです。稼いだお金は借金返済に回したり、長期的に経営を安定させる内部留保としてため込んだりしました。2008年のリーマン・ショックで景気は大きく落ち込み、デフレが深刻になって今に至ります。バブル崩壊から今までの期間が「失われた20年」と呼ばれています。
この流れを大きく変えたのが、昨年末の政権交代後に安倍首相が打ち出したアベノミクスです。①大胆な金融緩和 ②機動的な財政出動 ③成長戦略――の「3本の矢」が柱で、成長戦略の実効性が最大の課題でした。安倍政権が成長戦略の一環として打ち出したのが、企業のためのさまざまな対策です。法人向けの減税で企業の利益を増やし、そのもうけを賃金増につなげ、消費を増やして経済成長の好循環をつくるシナリオです。このため、首相は経済界トップに何度も賃上げを求めてきました。収益が改善したのに賃金を上げない企業名を公表するアイデアも出ています。これに対し、アベノミクスによる減税や円安などで潤っている会社が増え、経団連の幹部からも「要望が実現しつつある。賃上げに協力しないわけにはいかない」との声が出てきました。
ただ、ベアが実施できる余裕があるのは一部の大企業だけで、中小企業や地方の企業には広がらないとの見方もあります。賃上げが不発に終われば、来年4月の消費税アップで消費と景気が一気に冷え込む恐れもあります。賃上げがどうなるかは、経営側と労働組合とが話し合う春闘で決まります。春闘は毎年2月から3月。みなさんは会社説明会やエントリーシートで忙しいころですが、大きな流れは新聞に目を通していればつかめます。景気の動向は、みなさんの就活、さらにその後の仕事に大きな影響を与えます。これからのOB・OG訪問などで話題になるかもしれませんよ。
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