2023年04月21日

大阪に国内初のカジノ開設へ 経済活性化と依存症…光と影は【イチ押しニュース】

テーマ:経済

 国内初のカジノが大阪に誕生することになりました。大阪府と大阪市によるカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備計画について、政府が4月14日に認定したからです。2029年の開業をめざします。岸田文雄首相が「日本の魅力を世界に発信する観光拠点となることが期待される」と語ったように、インバウンド(訪日外国人客)誘致の起爆剤として経済活性化への期待が高まっています。一方でパチンコ、競馬、競輪、競艇などがあり、すでに「ギャンブル大国」といわれる日本で、ギャンブル依存症の増加や環境・治安の悪化を心配する声もあります。コロナ禍以降、オンラインカジノが普及したこともあり、かつてほどの経済効果は期待できないとの見方も。カジノをつくるかどうかは、日本の観光、エンターテインメント、文化のあり方を考えることでもあります。カジノをめぐる光と影を解説します。(編集長・木之本敬介)

(写真・大阪市の夢洲を想定したIRのイメージ図=MGMリゾーツ・インターナショナル社提供)

競馬・宝くじ・カジノ…「賭博禁止」の例外

 日本では「賭博=賭け事」は刑法で禁じられていますが、競馬、競輪、競艇、宝くじ、サッカーくじなどは例外として認められてきました。2018年成立のIR実施法で、そこにカジノが加わりました。カジノはお金を賭けてゲームなどをする場所です。米国のラスベガスや、シンガポール、中国のマカオなどのカジノが有名ですね。IRは「Integrated Resort(統合型リゾート)」の略。国際会議場やホテルを集めた施設の中にカジノを設けて、海外からの集客や収益アップを狙います。カジノの設置が認められるのは全国で最大3カ所。当初は、北海道、横浜市、愛知県、和歌山県なども誘致を検討していましたが、住民の反対などで次々に撤退。2022年に申請したのは、大阪と長崎県だけでした。

 外部有識者による観光庁の審査委員会が国際競争力や経済波及効果、事業者の運営能力、カジノ依存症対策などについて審査。大阪については、シンガポールのIRと同じかそれ以上の規模があることや、訪日観光客の増加が見込まれること、財務状況の安定性などが評価されました。長崎については審査を続けることになりました。佐世保市のテーマパーク「ハウステンボス」の敷地内につくる計画ですが、財務の安定性などから現段階での認定は難しいと判断されたとみられます。

年2000万人、売り上げ5200億円見込む

 今回認められたのは、2025年に大阪万博が開かれる大阪湾の人工島「夢洲(ゆめしま)」に、1兆800億円を投じて、カジノ施設のほか、三つのホテルや国際会議場、展示場、劇場などを整備する計画です。カジノは使う金額によって3フロアに分かれます。スロットマシンをはじめとする電子ゲーム6400台や、ポーカーなどのテーブルゲーム470台を置く予定。レストランやバー、VIPがプライバシーを保ちながら遊べるサロンも用意されます。年間の売り上げは5200億円を見込み、このうち8割がカジノの収益だといいます。年間の来訪者数は約2000万人、国内客が7割と想定しています。ラスベガスに本社を置くMGMリゾーツ・インターナショナルや日本のオリックスなどが出資します。IRは民間事業者が運営しますが、大阪府・市にも毎年、計1060億円の納付金などが入るとされ、子育て支援や教育、ギャンブル依存症対策などに使われる想定です。

ギャンブル依存症・マネロンの心配

 数字だけを見ると景気の良い話に思えますが、心配されているのはギャンブル依存症の拡大です。依存症を防ぐため、国内客には入場料6000円を課し、入場回数を7日間で3回、28日間で10回までに制限します。大阪府は依存症対策推進条例を制定し、基金や支援センターの設置を掲げますが、治療・回復のための施策が中心。IRに反対する市民団体は「そもそもIRをつくらなければ依存症も生まれない」と批判しています。

 マネーロンダリング(資金洗浄)の温床になるとの懸念 もぬぐえません。カジノはチップでやり取りするため犯罪収益の受け渡しが容易にできたり、犯罪に関わる金の流れがカジノをはさむことで追えなくなったりするおそれがあるからです。計画では暴力団員の入場は禁止ですが、暴力団員かどうかの判定は事業者任せです。

「カジノに頼らなくても」…

 世界のカジノ事業が変わったとの指摘もあります。アジアのカジノは中国の富裕層が主な客でしたが、中国の習近平政権がギャンブル規制を強化し、マカオは逆風にさらされています。コロナ禍以後にはオンラインカジノが広がりました。『カジノ幻想』などの著書がある静岡大学の鳥畑与一教授(経済学)は「今後、施設型のカジノに巨額の投資をするというビジネスモデルは成り立たなくなっていきます。大阪の計画は事業期間を35年としています。数十年も大阪経済を支えるものになることはないでしょう」と話しています。さらに、「昨年、世界経済フォーラムが発表した2021年版『旅行・観光開発指数』の世界ランキングで日本は1位となりました。カジノに頼らなくても、世界中から観光客が訪れています。世界の観光産業のメインストリームはカジノではありません。日本はメインストリームで勝負できるはずです」とも。

 ここまで読んできて、あなたはどう考えますか。私がもやもやを感じるのは、ギャンブル依存症などで「不幸になる人が出るに違いない」という前提の事業で経済活性化をめざしていいの?ということです。何事にもプラス面とマイナス面があり、必ずしも正解はありませんが、仕事ではそんな中でも自分なりに考えて決断を迫られます。カジノの是非について、あなたはどう考えますか?

(写真・MGM系列のカジノでカードゲームに興じる人たち=2019年1月、米ラスベガス)

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