2023年03月25日

大会やリーグを応援する企業を調べてみよう/発展するMリーグを例に考える【イチ押しニュース】

テーマ:就活

 「第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」で、日本代表「侍ジャパン」は優勝しました。中継を見て興奮した方も多かったと思います。このような大会には、スポンサー企業がついています。運営に巨額のお金がかかるので、収入を得る必要があるからです。スポンサー企業は、会場や選手のユニホームにロゴを掲示したり、人気選手が出る広告を作ったり、様々な権利を得ます。また、企業の姿勢をPRすることもできます。

 例えばWBCグローバルスポンサーの1社、NIPPON EXPRESSホールディングスは公式サイトで「協賛を通して、長期ビジョン『グローバルで存在感のあるロジスティクスカンパニー』の実現にむけ取り組む」としています。確かに、国境を超えてスケールの大きなビジネスを展開する同社と、世界一を目指す華やかな大会は、親和性がありますね。グローバルスポンサーには、コナミデジタルエンタテインメント、興和THKもなっており、ほかにも「特別協賛」「協賛」などとして多くの企業が名を連ねています。

 このように、私たちが楽しむスポーツやエンターテインメントには、多くの企業がかかわっています。その背景には、企業の戦略、経営者や社員の強い思いがあります。今回は、最近立ち上がり、急速に成長している新しいリーグを紹介しましょう。(教育事業部次長 藤田明人)

(写真・WBCで優勝を決めた日本代表)

麻雀プロリーグ戦「Mリーグ」の誕生

 2018年、「Mリーグ」という麻雀のプロリーグが始まりました。創設したのは、サイバーエージェントの藤田晋社長です。社長は学生のころから麻雀に熱中し、普及に情熱を持っていました。技を極めたプロ選手が、安定した収入を得られ、子どもの憧れの職業になる世界を目指したのです。新リーグを作って、同社が力を入れるABEMAで放送すれば、視聴者の増加も期待できます。

 それまで麻雀大会でスポンサーを募ることには、大きな課題がありました。賭け事のイメージがあったため、企業が関わりにくい面があったのです。Mリーグはギャンブルとの決別を宣言し、破った選手は永久追放する強い姿勢を示しました。これで、企業は安心して応援できるようになりました。
 
 リーグの冠スポンサーは、大和証券です。同社の公式サイトでは、将棋の「名人戦」や囲碁の「本因坊戦」などへの協賛とともに、Mリーグが紹介されています。日本を代表する証券会社が参画したことは、多くの人から、麻雀の格を大いに上げたと受け止められました。大和証券の鈴木誠也広報部長は、「証券会社の仕事は先を読むことが大事。麻雀も同じく先を読む競技で、共通点がある。社内でも麻雀が好きな社員が多い。楽しみながら、メンタルのコントロールにも役立つと思う」と話します。
 
 また、同社の戦略にも合っていました。Mリーグの視聴数は年々増え1試合数百万になる日もあり、女性や若い世代に広がっています。大和証券グループは、スマホで気軽に投資ができる「コネクト」などの新しいサービスに力を入れており、視聴者が親しんでくれれば、効果が大きいからです。「レジャー白書」によると、2021年の国内麻雀人口は450万人(前年比50万人増)。鈴木部長は「取引先の方との会話のなかで、Mリーグの話題が出ることが良くある」と、人気の高さを実感しています。

(写真・Mリーグの放送で表示される大和証券のロゴ=ABEMA提供)

ファンが喜んだ麻雀愛に満ちた企画

 人気が高まるにつれて、スポンサーも増えていきました。2021年には、「チーホー出たらユーホーあげる」という企画が、ファンを驚かせました。企画したのは、この年から協賛した日清食品です。「ユーホー」は、看板商品の一つ「日清焼そばU.F.O.」のこと。「チーホー(地和)」は「役満」(最高得点の役)の一つ。ゲーム開始直後にあがれる夢のある役ですが、めったに出現しません。よく打つ人でも一生に一度か二度できればいいな、という憧れの存在です。同社は、Mリーグの試合で地和をあがった選手に一生分のU.F.O.を贈ると宣言し、ファンの心をつかみました。
 
 さらに、「麺」の字などをあしらったオリジナルの麻雀牌を制作 。その牌を使ってMリーガーが勝負する「麺麺位決定戦」「麻雀星人 VS 地球代表」といった特別な対局を行いました。3月23日には「麺飯位決定戦」を放送。役満の一つ「四暗刻」が飛び出し、盛り上がりました。

 発案した社員は、マーケティングを担当する酒元陽平さんです。小学生の時から家族麻雀に親しんだ酒元さんは、大学生の時によく麻雀店に行っていました。カップヌードルやU.F.O.は、打ちながら食べるのに最適で、Mリーグのファンと自社商品の相性が良いと考えたのです。酒元さんが強調するのは、ファン層の広がりや、SNSの力です。「Mリーグのパブリックビューイングに行くと、熱気がすごい。家族連れの方などもおられ、着実にファンが増えている。また、ツイッターなどで情報発信されるファンが多く、企画がすぐに多くの方に伝わっていってとてもうれしい」。日清食品がMリーグとコラボしてYoutubeにアップした動画は、80万回以上再生されたものもあり、社内でも多くの部署から反響があるそうです。

(写真・「麺飯位決定戦」の告知=ABEMA提供)

企業の強みを生かしたMリーグへの参戦

 Mリーグの特徴は、選手4人のチームで戦うことです。個人競技だった麻雀の世界で、団体戦のコンセプトは新鮮でした。創設時にチームを作ったのは、コナミアミューズメント、サイバーエージェント、セガサミーグループ、テレビ朝日、電通、博報堂DYメディアパートナーズ、U-NEXTの7社。いずれもエンタメ分野に強く、コナミやセガは麻雀ゲームも出しており、元々強いつながりがあります。広告業界2強の電通と博報堂が同時に参戦したことも、注目を集めました。

 さらに、2年目の2019年に、KADOKAWAが新しく加わりました。チーム名は「サクラナイツ」。同社が埼玉県所沢市に設けた文化発信の拠点「ところざわサクラタウン」 にちなんでいます。企画したのは、Mリーグ運営室の森井巧室長(サクラナイツ監督)です。野球やサッカーが好きな森井室長は、かねてからプロスポーツのビジネスに関心を持っていました。2018年、Mリーグが初年度から盛り上がっているのを見て、チャンスだと感じます。「麻雀がグレーなイメージから頭脳スポーツに切り替わろうとしているのは、よいタイミングだと感じた。どんな分野でも、価値が転換するときにビジネスが生まれる。チームを持てば、イベント、ファンクラブ、グッズ、出版などいろいろな可能性がある」。元々KADOKAWAが強い分野と相乗効果が見込める、と考えたのです。

 サクラナイツは、2021年~22年のシーズンで初優勝を果たし、優勝賞金5000万円を獲得。多くのメディアで社名が露出した効果も大きく、社内で「会長特別賞」を授与されました。森井室長は「次の時代は、『今この瞬間に起こっていること』を楽しむエンターテインメントが熱い。野球やサッカーなどと並んで、Mリーグもまさにライブ感のあるエンタメだ」と話し、将来の成長を期待しています。
 
 他の多くのスポーツと同様、Mリーグはリーグ本体に加え、各チームも独自にスポンサーを募っています。テレビ朝日のチーム「EX風林火山」は3月27日から、将来の選手候補を選ぶ「IKUSA」という大会を開きます。この大会には、明治が発売する「ブーストバイツ」 というエナジードリンク味のグミの冠がつくことになりました。同社宣伝部の小口陽平さんは「『グミをかんで集中する』ことを打ち出したいと考え、『集中』するものを探していた時に、上司を含めて『最近Mリーグがきているよね』という話になった。Mリーグの視聴者層と商品のターゲットが合っているし、やはりお菓子なので、楽しいことと相性が良いと思う」と話します。麻雀にかかわる企業は、これからも増えていきそうです。

 Mリーグの公式解説者で、麻雀の歴史に詳しい土田浩翔プロは「昔のことを考えると、多くの企業の支援を受けられるのは、夢のような世界だ。Mリーグの最高顧問に、(Jリーグ初代チェアマンなどを務めた)川淵三郎さんが就いて下さった効果も大きい。Mリーグができたことで、最高の舞台を目指そうと、プロ選手の意識も変わった。これからさらにメジャーな競技になって欲しい」と話します。

(写真・KADOKAWAサクラナイツのメンバー。右から森井巧監督、渋川難波、内川幸太郎、岡田紗佳、堀慎吾の各選手)

業界・企業をさがすきっかけにも

 私たち朝日新聞社も、初年度からMリーグのスポンサー企業になっています。私も、麻雀好きな社員の一人としてかかわっています。Mリーグを応援する理由は、麻雀が、人と人をつなぐ素晴らしいゲームだと考えているからです。もともと新聞社は、報道やイベント・大会の開催を通じて、人と人がつながる場を作ることに重きを置いています。麻雀は、観察力、数理的思考、バランス感覚、忍耐力、マナーなどが身について子どもの成長にも役立ちますし、生涯楽しめる趣味にもなります。少子高齢化で大きな社会課題になっている孤独の解消にもつながるでしょう。また、今後大会やイベントを開けば、会社の新しい事業として育てられる可能性があると考えています。

 ただ根底にあるのは、単純に「好き」という気持ちです。社内には麻雀を愛する社員が数多くいて、部署に関係なく、優れた競技、文化として発展させたいという志を共にしています。

 おそらく、何かのスポンサーになっている企業の社内には、強い思いを持つ経営者や社員がいるはずです。就活で気になる企業があれば、「会社名+スポンサー」の2語で検索してみましょう。プレスリリースやツイッターの投稿、動画などが見つかることがあります。何に協賛しているかを知ると、企業理念や今後の戦略がわかります。OB・OG訪問や面接の時に話題にできる場面があるかもしれません。また、業種や企業選びに悩んでいる方は、「自分が好きな競技を応援している会社」を探してみるのも面白いと思います。

(写真・2022年8月、朝日新聞東京本社で開かれ「Mリーグ夏休み小学生麻雀大会」)
 

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