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東京五輪・パラリンピックを舞台にした談合事件で、大会運営の中核を担った組織委員会の元次長と広告最大手・電通の幹部らが逮捕されました。アスリートの活躍で多くの感動をくれたスポーツの祭典の足元で、汚職事件に続き、談合も行われていたというショッキングなニュースです。ただ、「談合」と聞いても自分には関係ないと思っているひとが多いかもしれません。談合は具体的な被害者が見えづらいといわれ、ときに「必要悪」との主張も聞かれます。しかし、資本主義の根本である自由で公正な競争を妨げる行為で、公的なおカネが支出される事業で行われると、私たち納税者が被害を被る許されない犯罪です。今回は、就活生に人気の広告業界が中心でしたが、談合はゼネコンなど他の業界でもたびたび起きています。談合ってそもそもどういうことで、何がいけないのか、「基本のき」を分かりやすく解説します。(編集長・木之本敬介)
(写真・東京五輪・パラリンピックの運営をめぐる談合事件で、捜査の対象となっている電通の本社ビル=2月8日、東京都港区)
(写真・東京五輪・パラリンピックの運営をめぐる談合事件で、捜査の対象となっている電通の本社ビル=2月8日、東京都港区)
ドラマ「競争の番人」でも
そもそも、なぜ談合はいけないのでしょう。役所が工事を発注したり、ものを買ったりするときに「入札」を行います。一番安い金額を提示した業者と契約する仕組みなので、落札したい業者の間で価格競争が起こります。入札に参加する業者が事前にこっそり話し合い、どこが一番安い金額を示して仕事を請け負うかを決めてしまうのが談合です。質の競争もしなくてよいので、役所は低品質のものを高い値段で買わされ、税金が無駄につかわれます。つまり業者が税金を食い物にする形で、納税者みんなが被害者ということになります。談合は、昨年のフジテレビ系月9(月曜夜9時のドラマ)の「競争の番人」でも取り上げられました。談合や企業同士が競争を避けるために結ぶカルテルを監視している公正取引委員会を舞台にしたストーリーがSNSなどで話題になりました。談合に関わった役人が「この国のインフラは国民の安全を守る重要な生命線だ。スーパーの安売り品とはわけが違う。多少金がかかっても、信頼のある大手の会社が安定的に工事を行うべきだ。そうすることでこの国の安全を守ることができる。談合は、国民の命を守るためにあるんだよ」と語る場面がありました。「安全」を理由に談合を「必要悪」とする主張ですが、「競争のない社会は上から腐る」という主人公の前に敗れ去ります。安全も、公正なルールの下で追い求めなければならないのは当然です。
(写真・ドラマの原作となった小説「競争の番人」〈講談社〉)
テスト大会・本大会で競争を制限した疑い
東京五輪の事件では、組織委の元次長や電通、業務を受注したイベント制作会社セレスポと番組制作会社フジクリエイティブコーポレーション(FCC)の幹部や役員計4人が独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで、東京地検特捜部に逮捕されました。組織委は2018年、各競技のテスト大会の計画を立案する業務について、会場ごとに26件の競争入札を実施し、9社と1共同企業体が落札しました。全ての落札企業は、その後のテスト大会の実施運営や本大会運営の業務も、入札のない随意契約でそのまま受注。随意契約の総額は約400億円でした。発表などによると、4人はテスト大会から本大会に至る業務を対象に、面談やメールを通じて受注を調整。各社の希望を踏まえて受注予定業者を決め、その業者だけが入札することなどで合意して競争を制限した疑いがあります。東京大会をめぐって特捜部は組織委元理事が絡んだ汚職事件の捜査を先行させ、大会スポンサー企業関係者ら計15人を起訴。その捜査の過程で談合についても明らかになりました。「コンパクト五輪」が掲げられた東京大会の裏で、組織委も絡んで競争を阻み、経費が押し上げられていたことになります。大会の経費は、招致時に示された約7300億円から組織委が公表した約1兆4200億円に膨らみ、会計検査院会計検査院は昨年、それより約2800億円多い約1兆7000億円と認定しています。
ガリバー・電通頼みだった広告業界
2012年ロンドン五輪では国際スポーツ大会の運営経験を持つ人材が国籍を問わず組織委のメンバーに起用されましたが、東京の組織委は人件費を抑える目的や言語の問題から海外人材の登用に消極的でした。組織委には過去に五輪や国際スポーツイベントの運営に関わった幹部はほとんどおらず、日本陸上競技連盟から出向していた元次長やノウハウを持つ電通に頼り切ったことが事件につながりました。事件の背景として「広告業界の慣習」を指摘する声もあります。ガリバー的存在の電通がテレビ局などとの間に入って他の広告会社に仕事を回すのは業界慣習で、五輪でも組織委と電通は他社からは「一体」に見えていたといいます。日本では今後も大規模な国際スポーツイベントが予定されています。今夏には福岡で水泳の、2025年には東京で陸上の世界選手権、2026年には愛知でアジア競技大会があります。いずれも自治体が運営に加わっており、数十億~数百億円規模の税金が投入される見通しです。さらに、札幌市も2030年冬季五輪の招致に動いています。大イベントの運営で電通など一部に頼らない態勢が求められます。
ゼネコン、印刷、電力…
談合は、これまでもいろいろな業界で起きてきました。近年の例では、2018年、リニア中央新幹線の建設工事を巡る談合で、東京地検が大手ゼネコン4社と、リニア担当だった2社の幹部を独禁法違反の罪で起訴。2022年には日本年金機構の「ねんきん定期便」をめぐり、公取委が大手印刷業者など26社の談合を認定し、24社に計約17億円の課徴金納付命令を出しました。電力業界では同年、大手電力会社が事業者への電力供給で互いに顧客獲得を制限するカルテルを結んでいた疑いが発覚しました。
どの業界でも、談合などの不正に関わる可能性がないとは言い切れません。今回の事件を機に、自由、公正な競争の大切さについて考えてみてください。
広告業界についてはこちらを読んでください。
●人気の広告業界が五輪汚職で大揺れ どんな仕事?これからは?【業界研究ニュース】
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