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民間初の月探査計画「HAKUTO-R」を進める日本の宇宙ベンチャー「ispace(アイスペース)」の月着陸船が日本時間11日、打ち上げに成功して月に向かっています。計画通りなら、来年4月末ごろに月に降り立ちます。ほかにも、日本のベンチャー「ダイモン」や米国のベンチャー企業が月着陸を目指して競うなど、民間企業による月探査が本格的に動き出しました。こうした歴史的な挑戦を陰で支えるのは損害保険会社による宇宙保険です。「HAKUTO-R」の保険を引き受けるのは三井住友海上火災保険。ispaceと共同で「月保険」を開発しました。東京海上日動火災保険も衛星からのデータ活用などの「宇宙ビジネスに力を入れています。世界の宇宙関連のビジネスは今世紀半ばに100兆円規模の巨大市場になるとの予想もあります。リスクの高い新たな挑戦は、損保会社の協力がないと始められません。宇宙ビジネスと保険会社の関係を読み解きます。(編集長・木之本敬介)
(写真・月面に降り立つispaceの月着陸船のイメージ=同社提供)
(写真・月面に降り立つispaceの月着陸船のイメージ=同社提供)
「損保もチームの一員」
ispaceの月着陸船は、米フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から、米宇宙ベンチャー・スペースX社のファルコン9ロケットで打ち上げられました。宇宙航空研究開発機構(JAXA)やタカラトミーなどが共同開発した月面探査ロボットや、アラブ首長国連合の月面探査車など計七つの荷物を搭載。着陸後、実際に月面で動かし、地球にデータを送れるかを実証します。宇宙保険には、ロケット打ち上げ前までの地上での損害を補償する「打ち上げ前保険」、打ち上げから宇宙空間に達するまでの間を補償する「打ち上げ保険」、宇宙空間での人工衛星の損害を補償する「寿命保険」などがあり、三井住友海上は今回、損害を切れ目なく補償します。宇宙保険の設計はオーダーメイドですが、難しいのは事故のリスクの算定です。過去の事故や走行データの蓄積がある自動車保険と異なり、打ち上げ事例が限られるためです。万が一の場合に払う保険金の規模が大きく、保険料は大型衛星の打ち上げでは数十億円に上るケースもあります。三井住友海上では保険料を決めるにあたり、ロケットや衛星のメーカーのエンジニアやプロジェクトマネジャーらに製品構造を細かく聞き、リスクを洗い出しました。ノウハウがある海外の保険会社と情報交換したり、過去の海外の保険なども参考にしたり。今回の月保険も、ispace関係者と情報交換を重ね、市場動向などを参考に検討したといいます。担当者は、「日本の宇宙産業が発展するには民間の力が必要。保険を用意することで民間企業の成長を支えられるはずで、損保もそのチームの一員だ」と話しています。
(写真・ファルコン9ロケットから分離されたispaceの月着陸船=スペースXのライブ配信から)
東京海上日動、衛星データ活用
人工衛星が取得したデータを活用する試みも広がっています。東京海上日動火災保険は、台風や豪雨などの大規模な水害が発生した際の保険金の支払いに、衛星画像を活用しています。三菱電機など衛星ビジネスを手がける企業3社と提携し、近年増えている災害での保険金の支払いを迅速化しています。これまで一軒一軒を人が確認してきましたが、被害の範囲と浸水高を数センチ単位で把握できるようになり、これまで2~3週間かかっていた保険金支払いまでの期間を最短で数日にまで短縮できるようになりました。こうした衛星データが提供されるようになった背景には、衛星の小型化と量産化があります。技術が進み、民間企業が重さ100~500キロほどの小型衛星を低コストで開発できるようになりました。複数の衛星を一体的に運用すれば、高い頻度で観測できます。利用は農漁業の生産や、インフラ管理、エネルギー分野などにも広がっています。
東京海上日動とJAXAによる衛星データ活用の事例はこちらを読んでみてください。
【SDGsに貢献する仕事】東京海上日動 気候変動で損保の役割増 社会課題解決へ養殖業保険を開発
【人事のホンネ】宇宙航空研究開発機構(JAXA)衛星・ロケットで「何する」? データ分析など幅広い人材必要
(写真・地上を撮影する重さ100キロほどの超小型衛星=アクセルスペース提供)
2050年の国内市場60兆円と予想
総務省が開催した有識者会議「宙を拓くタスクフォース」の報告書は、宇宙の利用の将来像として、衛星インフラ構築・運用、衛星活用サービス、宇宙探査・有人宇宙活動、宇宙環境活用サービス、輸送システムなどを挙げています。衛星活用サービスには通信・放送サービスや衛星測位を活用したサービスなどが、宇宙探査・有人宇宙活動には植物工場や水・空気の再生技術などが含まれます。輸送システムにはロケットのほか、宇宙エレベーターなどもあります。宇宙関連ビジネスの市場はどれぐらいの規模になるのでしょうか。米国の金融機関は2040年代には100兆円を超えると予想しています。ロケットや人工衛星の打ち上げなどの宇宙機器産業をベースに、それを活用した派生的なビジネスが大きく伸びるとみているのです。「宙を拓くタスクフォース」が2019年にまとめた報告書によると、2050年には日本国内の宇宙産業市場規模を59.3兆円と予想。このうち宇宙関連産業が4.4兆円、波及的市場は54.9兆円とみています。宇宙ビジネスは多様な業界に広がりをもつ産業になるでしょう。宇宙に関心がある人はもちろん、そうでない人も、志望企業と宇宙ビジネスとのつながりを調べてみてください。
こちらも読んでみてください。
●月へ民間船、今年打ち上げ メーカーに金融…参加企業に注目【イチ押しニュース】
●「2021年宇宙の旅」が実現 宇宙ビジネスの今とこれから【時事まとめ】
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2024/04/20 更新
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