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就活生に人気の大企業がよく掲げている「東証1部上場」の看板がこの春から「東証プライム」に変わります。会社の株式などを売買する東京証券取引所(東証)が、今の五つの市場を三つに再編します。成長企業を厳選して世界から投資を呼び込み、世界の株式市場の中でも存在感を高めるのが狙いです。ただ、激変緩和措置もあって東証1部の8割以上が当面はプライムに移ることになり、早くも再編の効果を疑問視する声も上がっています。ところで、そもそも「上場」って何のことだか説明できますか。「非上場」の企業は受けないほうがいいの? 東証の再編を機に、就活生の企業選びや企業研究にも役立つ「上場のキホンのキ」を学びましょう。(編集長・木之本敬介)
(写真は、大河ドラマで渋沢栄一を演じ、東証の大納会に臨む吉沢亮さん=2021年12月30日、東京都中央区)
(写真は、大河ドラマで渋沢栄一を演じ、東証の大納会に臨む吉沢亮さん=2021年12月30日、東京都中央区)
東証再編は看板の掛け替え?
東証は「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一がつくった市場を前身とする世界有数の株式市場です。東証は4月4日に5市場(東証1部、2部、ジャスダック・スタンダード、ジャスダック・グロース、マザーズ)を、グローバル企業中心の「プライム」、実績のある大企業や中堅企業中心の「スタンダード」、新興企業向けの「グロース」の三つに再編します。狙いは、市場の性格をはっきりさせて投資をしやすくすることです。東証1部には、時価総額 37.8兆円のトヨタ自動車から数十億円の地方銀行まで約2200社、全上場企業の6割の企業が集中し、最上位市場としての性格がわかりにくくなっていました。そこで、これまでより厳しい上場基準で日本を代表する大企業に絞った最上位のプライム市場を設け、海外からも投資を呼び込む戦略です。ただ、上場先の変更が取引先との関係や採用に与える影響を心配する企業側に配慮し、「当分の間」は基準に満たなくても上場できる経過措置も設けました。東証が1月11日に公表した上場3777社の移行先を見ると、プライム市場に東証1部の84%にあたる1841社が移ります。うち約300社が経過措置を利用。経過措置の期限も明確ではないため、このままでは「看板の掛け替えに終わる」との批判も出ています。
世界5位に転落、アップル1社で東証の半分
世界取引所連盟によると、東証を傘下に持つ日本取引所グループの上場株式の時価総額は2021年11月時点で6.4兆ドル(約740兆円)と世界5位。成長著しい中国の上海証券取引所には2020年に、2021年には欧州のユーロネクストにも抜かれました。米国のニューヨーク証券取引所(28.4兆ドル)やナスダック市場(24.3兆ドル)には遠く及びません。米国の市場と大きく差が開いた理由は、成長市場であるIT分野の競争に負けたことです。米アップルの時価総額は1月3日に世界の上場企業で初めて3兆ドル(約345兆円)を超えました。日本企業トップのトヨタの約10倍にあたり、アップル1社で東証1部上場企業の時価総額合計(約730兆円)のほぼ半分に達するほどです。成長のカギはIT、研究開発
そんな中、日本の時価総額トップ10企業を見ると、投資や研究開発にお金を使っている企業が多いことが分かります(表参照)。バブル経済のころは大手銀行がずらりと並んでいましたが、今は8位の三菱UFJフィナンシャル・グループだけです。電気自動車(EV)への本格参入を発表したソニーグループの時価総額は1月5日に一時20兆円に迫り過去最高水準に。半導体製造装置大手の東京エレクトロンは世界的な需要増に対応、時価総額が10兆円を超えました。信越化学工業は半導体の材料となるシリコンウェハーで世界シェア3割を占め、キーエンスは工場で使うセンサーや計測器などを開発・販売する会社です。今後もITや脱炭素への投資や研究開発がカギとなりそうです。上場のメリットは資金調達と信頼度・知名度
そもそも「上場」とは何でしょうか。企業の多くは株式会社です。起業家は株式を発行してお金を集め、設備投資や人件費、日々の運転資金に充てます。起業当初は有力なスポンサーでもいない限り、株を買う株主は起業家本人や身内、知人などに限られます。あとは金融機関からの融資ですが、これだけでは限界があります。さらなる成長に向け多額の資金を調達するために、証券取引所で誰でも株式を売買できるようにすることを「上場」といいます。少ないコストで資金調達ができるうえ、株式を発行して得たお金は銀行などからの借入金とは違って返済する必要がありません。ただし、上場は簡単ではありません。いいかげんな会社を上場させたら、投資家に迷惑がかかり、取引所の信用も落としてしまいます。業績や経営基盤、将来の見通しなど取引所の基準を満たし、審査に合格しないと上場できません。このため、上場企業は「社会から一定の信頼を得た会社」とみなされ、知名度や信頼度が増し、優秀な人材も採用しやすくなるわけです。あさがくナビを運営している就職情報会社・学情が会社のロゴに「東証一部上場」と明記しているのもこのためです。
「IR情報」を見よう
上場企業は、就活生にとってとてもありがたい存在です。経営状況を詳しく公開する義務があり、「IR(投資家向け)情報」として誰でも見ることができるからです。各企業のコーポレートサイトの「企業情報」「会社情報」といったコーナーに載っています。グラフなどで見やすい工夫をしている企業も多くあります。中でも「有価証券報告書」(有報)は重要です。細かい数字が多くてとっつきにくいと思いますが、志望度の高い企業については拾い読みでもいいので目を通すようにしましょう。「この会社にはいくら借金があるのか」「もうけは増えているのか」「社員の給与はいくらか」といった経営状態が詳しく分かります。企業研究の宝庫ですよ。(写真は、東京証券取引所=東京都中央区)
非上場にも有名企業が
では、上場していない会社は信用できないのかというと、必ずしもそうではありません。有名でも非上場の企業に、竹中工務店、森ビル、JTBグループ、YKKグループなど、すでに知名度や信用力があって資金繰りにも困らない優良企業があります。朝日新聞社をはじめ新聞社や出版社の多くも非上場です。上場すると、細かい情報公開を求められるほか、株主の様々な意向を尊重しなければならないため、経営の自由度が狭まります。有名非上場企業には創業家がオーナーとして君臨しているところも多く、身内や古くからの株主以外の法人や個人が大株主になって影響力を持つのをいやがる場合もあります。なお、新聞社の場合は特定の勢力に株を買い占められて報道がゆがんでしまうのを防がなければならず、言論の自由を守るために株の譲渡を制限できると法律で定められています。とはいえ、非上場企業には上場したくてもまだ基準をクリアできない会社が多いのは事実です。就活生の企業選びにあたっては、上場企業なら比較的安心とは言えますが、非上場企業だからNGというわけではないということですね。有名な非上場企業には、創業以来の個性的な社是や社風があるところもあるので、会社説明会やOB・OG訪問で確かめてみてください。
(写真は、4月からの新市場始動に向けあいさつする東京証券取引所の山道裕己社長=2022年1月11日、東京都中央区)
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