2020年10月02日

「東証」終日ストップ…株取引に関わる業界知ろう【イチ押しニュース】

テーマ:経済

 東京証券取引所(東証)は1日、システム障害ですべての株式売買などを終日停止しました。2日には復旧して取引が再開されましたが、1日平均3兆円が売買される巨大株式市場のストップは経済に大きな影響を与えます。政府がめざす東京の「国際金融都市構想」にも水を差しました。これを機会に、経済のインフラである東証の基本を押さえるとともに、関連する業界や仕事についても知っておきましょう。(編集長・木之本敬介)

(写真は、システム障害の影響で終日取引が停止した東京証券取引所=2020年10月1日、東京都中央区)

世界に影響

 2日の日本経済新聞朝刊の株式欄には、見開き2ページに各社の株価の数字の代わりに「-」がずらっと並びました。朝日新聞は紙面から株式欄の大半をなくしました。異常事態が伝わります。

 1日朝、東証の株売買システム「アローヘッド」の機器が故障しました。バックアップのシステムはあるのに、何らかの原因で切り替わりませんでした。アローヘッドは東証と富士通の共同開発で、両者で詳しい原因を調べています。同じシステムを使う名古屋・福岡・札幌の各取引所も取引を停止しました。システム障害は過去にもありましたが、終日ストップは初めてのこと。今は、精密なシステムによって数千分の1秒という超高速で取引が行われています。東証の株取引の6~7割を海外投資家が占めていてトラブルの影響は世界に及びました。

 東証は、大企業向けの第1部、中堅企業向けの第2部、ベンチャー企業や成長企業向けのマザーズジャスダックなどの市場があり、約3700社が上場しています。前身は1878年に発足した東京株式取引所で、2013年に大阪証券取引所と統合・再編して今は日本取引所グループ(JPX)の子会社です。

アジアの「国際金融センター」めざすのに

 東証のトラブルは、政府がめざす経済活性化の障害にもなりかねません。図を見てください。世界には証券市場がいくつもありますが、東証を含む日本の市場は、米国のニューヨーク証券取引所ナスダック市場に次いで、上海証券取引所などと3位を競っている大きな市場です。日本の市場での取引が大きくなれば、お金も人も集まりますから、日本の経済にとってはプラスです。だから、政府は、東京を「国際金融都市」にしようとしています。アジアの国際金融センターと呼ばれてきた香港が、中国の圧力で自由を奪われつつあり、その地位が危うくなっています。そこで、香港の優秀な金融人材を日本に受け入れる施策も進めているところです。

 もう一つ、政府は「貯蓄から投資へ」という政策を掲げています。日本は個人の貯蓄額がとても多いのですが、今の低金利の時代にはただ眠っているようなものです。この巨額の個人貯蓄を株式などの投資に向かわせて経済を活発にしようとしているわけです。東証での取引はその基盤ですから、国際的にも国内向けにも信頼を失いかねないトラブルに、政府も強い危機感を表明しました。

すべての株式会社が関わる

 就活生にとってはこうしたトラブルも、企業研究の機会です。日本経済の基盤を支える株式市場に関わる仕事を調べてみましょう。主な業界を紹介します。

■証券会社
 もっとも関わりが深いのはやはり証券会社です。顧客から株式などの売買を請け負って仲介手数料を得たり、自らが株式を運用して利益を上げたりします。企業が資金を調達するために株を発行する際には、その株を引き受けて売り出します。新たに株式を上場する企業があれば、様々な手続きを代行しますし、コンサルタントとして幅広い業務も担います。ネット証券会社も割安な手数料で存在感を増しています。

■銀行・信託銀行
 銀行は、預かったお金を貸し出して金利の差(利ざや)から収益を得るのがメインですが、金融自由化で、株式などを運用する投資信託業務もするようになりました。証券会社との連携も盛んになっているため、株に関わる仕事も増えています。信託銀行は、投資信託がメイン業務の一つですから、より関わりが深いといえます。

■生命保険会社
 生命保険会社は、顧客から集めた保険料を株式などで運用し、そこから得られる利益を主な収益源としています。大手生保では巨額の保険料を運用していますから、株式市場への影響力がとても大きい業界です。

■企業のIR部門
 金融機関以外の業界でも、みなさんが受けるのはほとんどが「株式会社」ですから、株と無縁の企業はありません。経理部門のほか、上場企業のIR(Investor Relations、投資家向け情報)を担当する部署では株主への情報提供が仕事です。志望する企業のサイトで「IR情報」を開いて、企業研究を深めましょう。

 株取引そのものに興味がある人は、東証を含む日本取引所グループなど、取引所で働くのも選択肢です。JPXのサイトには詳しい仕事内容や株式を学べる資料が載っています。調べてみましょう。

●株価や株式会社については「大恐慌以来の暴落!? 『株価』『株式会社』基本のき」【時事まとめ】を読んでみてください。

(写真は、東京証券取引所=東京都中央区)

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