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コロナショックで派遣社員の契約を更新しない「雇い止め」が相次ぎ、大量に雇い止めされる「5月危機」が心配されています。「派遣切り」とも呼ばれます。倒産すると正社員の身分も危うくなりますが、そこまで至らなくても企業は業績が悪化すると派遣社員から契約を切っていきます。正社員は簡単にはクビにできませんが、雇用期間が決まっている非正規の社員は延長しなければ済むからです。「正社員と同じ仕事をしてきたのに……」との嘆きが広がっています。もちろん、会社に縛られない働き方を自ら選択する人が積極的に派遣を選ぶならいいのですが、やむなく派遣などの非正規で働いている人も多いのが実情です。生涯賃金も正社員とはかなり差があります。日本でも転職が盛んになってきましたが、現役の就活生だけが対象の新卒採用は人生に1度きりの「ゴールデンチケット」といわれます。今は全力で正社員を目指してください。(編集長・木之本敬介)
(写真は、失業手当の給付手続きなどを行うハローワークの窓口。新型コロナ対策で間隔を空けて待つ人たち=2020年4月27日、東京都渋谷区)
(写真は、失業手当の給付手続きなどを行うハローワークの窓口。新型コロナ対策で間隔を空けて待つ人たち=2020年4月27日、東京都渋谷区)
「氷山の一角」
新型コロナの影響で解雇や雇い止めをされたり、その見通しがあったりする人は急増していて、5月28日時点の厚生労働省の集計で1万5823人で、5月だけで約1万2000人も増えました。これも各地の労働局が企業に聞いて把握できた人数なので「氷山の一角」とみられます。派遣社員やパート、契約社員などの非正社員は2100万人以上いて、雇われて働く人の4割近くを占めています。総務省の3月の調査によると、144万人いる派遣社員の7割強は雇用期間が限られています。もっとも多いのが「1カ月以上~3カ月以下」の39万人。企業では派遣社員の契約を4月から始め、四半期決算に合わせて3カ月ごとに更新するのが主流です。6月末で契約満了の人が多く、1カ月前の5月末に更新のタイミングが集中するため「5月危機」が心配されているわけです。また、派遣切りの温床といわれるのが、派遣先の仕事があるときだけ派遣会社に雇われる「登録型派遣」という働き方で、派遣労働者の半数超を占めるとされています。
そもそも派遣とは
人を集めて工場などに送り込む事業は古くからありましたが、仲介業者による給料のピンハネや厳しい労働環境が問題になり、派遣は日本では戦後長い間禁止されていました。業務を外部委託することはできましたが、発注者は委託先の社員にあれこれ指図できず企業にとっては不便だったため、国は1986年、経済界の要望を受け、専門性が高い13業務に限って労働者派遣を解禁しました。専門性をもとに柔軟な働き方ができると、当時、国や企業側はメリットを強調していました。でも、企業側の本当の目的は、辞めさせにくく人件費が高い正社員の仕事を、雇い止めしやすく待遇も抑えやすい派遣社員に置き換えることでした。国はその後も「多様な働き方の推進」などを名目に規制を緩め、対象となる業務も増やしてきました。派遣は会社にとって都合の良い仕組みです。景気の良いときは使い勝手のいい労働力として派遣社員に頼る一方、景気が悪くなると一気に減らして「調整弁」にしてきました。2008年秋のリーマン・ショックの後には、製造業を中心に雇い止めが相次ぎ、職場と住まいを失った人を助ける「年越し派遣村」が東京の日比谷公園にでき、多くの失業者が押し寄せるなど大きな社会問題となりました。今回のコロナショックでは、宿泊、飲食、小売りなどのサービス業が目立ちます。
(写真は、「派遣切り」などで仕事と住まいを奪われた労働者に食事と居場所を提供する「年越し派遣村」=2008年12月31日、東京・日比谷公園)
同一労働同一賃金
「年越し派遣村」のときの旧民主党政権は登録型派遣の原則禁止を目指しましたが、野党だった自民党などの反対で実現しませんでした。その後、正社員と仕事が同じなら、非正社員にも同じ賃金や手当を支払うべきだという「同一労働同一賃金」の考え方が強まり、これを企業に促す法律が今年4月から大企業に適用されました。2021年4月からは中小企業も対象になります。通勤手当や深夜・休日手当、社員食堂の利用、慶弔休暇や病気休職などについては原則、差をつけることは認められません。ところが、この適用が始まる前後にコロナショックに襲われたため、職を失ってしまった派遣社員が多くいるという皮肉な事態になっています。もっとも新法のもとでも、基本給やボーナスは、経験や能力、会社への貢献などに応じて差がつくことを認めています。「同一労働同一賃金」のルールが定着している欧州は、もともと職務によって賃金が決まる仕組みです。しかし日本の場合、正社員は異動や転勤でいろんな職務を経験して年功的に賃金が上がるのに対し、非正社員は特定の職務で採用するなど賃金の決め方が大きく異なります。格差はさほど縮まらないのではないかとみられています。
フリーランス
コロナショックでは、フリーランスの人たちも大きな打撃を受けました。「自由業」とも言われ、組織に属さずやりたいことをやれるイメージがありますが、今は厳しい状況です。フリーランスは多様な働き方の一つとして注目され、政府も拡大を目指してきました。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」の試算では、企業から委託を受けて報酬を得る働き手は、自営業者約538万人のうち約170万人と派遣社員よりも多くいます。独自の技術で高い報酬を得る人もいますが、フリーランスは法的には「労働者」とはされないため、セーフティーネット(安全網)が脆弱(ぜいじゃく)です。最低賃金制度は適用されず、仕事を失っても失業給付は出ず、仕事が原因でけがや病気になったときの労災保険もほとんど適用されません。
(写真は、経済的支援や相談態勢の拡充を訴えるフリーランスの人たち=2020年4月20日、大阪市北区の市役所前)
四重構造
派遣労働に詳しい棗(なつめ)一郎弁護士は朝日新聞の記事でこう語っています。「リーマン・ショックや新型コロナのような非常事態に真っ先に契約の終了や雇い止めにあうのがフリーランス、そして派遣労働者だ。パート・有期雇用社員らが続き、最後が正社員。こうした四重構造の中で日本は雇用調整をしてきた。生活のために仕事をするのは同じなのに、働き方で差別するのが日本の雇用社会の根本的な問題だ」
日本でも転職が当たり前になってきましたが、転職市場では「職歴」がものを言います。派遣社員でもよほど専門的な業務実績があれば別ですが、正社員の経験の有無、その内容が大きく影響することも知っておいてください。これから仕事と職場を選ぶみなさんは、今はとにかく正社員にこだわることです。
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