2019年10月18日

「英国とアイルランド」 ラグビーとEU離脱で歴史を知ろう【イチ押しニュース】

テーマ:国際

 日本代表の大活躍で盛り上がるラグビーワールドカップ(W杯)ですが、ラグビーの母国・英国からは何チームも出場しているのを知っていますか。これには、英国と隣国・アイルランドの複雑な歴史的経緯があります。10月末の期限を前に大詰めを迎えている英国の欧州連合(EU)離脱も、両国の国境をどうするかが最大のポイントになっています。EU離脱は多くの日本企業にも大きな影響を及ぼします。ラグビーW杯、EU離脱問題をきっかけに、歴史を学びましょう。(編集長・木之本敬介)

(写真は、W杯スコットランド戦の前にアイルランド代表チームの歌「アイルランズ・コール」を歌う選手たち=9月22日、横浜国際総合競技場)

英国は「連合王国」

 まずは、英国の成り立ちから。正式な国名は、「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)です。11世紀にイングランドが成立した後、ウェールズスコットランド、アイルランドと一緒になりました。1922年にアイルランドが自治領「アイルランド自由国」として独立、1949年には英連邦を離脱しアイルランド共和国になりましたが、北部(現在の北アイルランド)は残りました。英国の統治継続を望むプロテスタント系住民と、多数派カトリック系住民が対立。爆弾テロなどで3000人以上が犠牲になった「北アイルランド紛争」は1998年の和平合意まで約30年に及びました。

サッカーは英国とアイルランドで計5チーム、ラグビーは4チーム

 サッカーのW杯では、国と地域別にチームが組まれます。英国からはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4チームが、アイルランド共和国は別のチームとして、両国から計5チームが出場できます。国際サッカー連盟(FIFA)が、19世紀に設立された英国4地域のサッカー協会に経緯を示して特別扱いしてきたからです。

 一方、ラグビーW杯には、英国から、イングランド、ウェールズ、スコットランドが出場。さらに、日本代表が1次リーグで破ったアイルランド代表は、アイルランド共和国と英国領である北アイルランドの統一チームで出場しています。1879年創設のアイルランドラグビー協会が全島代表を貫いてきたからです。事情に詳しい成城大の海老島均教授(スポーツ社会学)は「国境をまたいでも社会的に同じエリート階層がプレーしていたのが、統一チームが続いた要因」とし、宗派は違っても「政治的な分断より、ラグビーのほうが古い歴史を持つというプライドもある」と説明します。

 「きょうだいのように寄り添い、1人はみんなのため一致団結して……」
ラグビーW杯の試合前、アイルランド代表はアイルランド共和国の国歌ではなく、代表チームの歌「アイルランズ・コール」を歌います。1995年にできた歌詞にある「肩を組んで」は、代表チームの代名詞になりました。

(写真は、試合終了後、健闘をたたえ合うアイルランドとスコットランドの選手たち=9月22日、横浜国際総合競技場)

EU離脱で合意

 英国のEU離脱問題の経緯をざっと復習します。EU圏からの移民移民の増加や政策の共通化への不満などから、英国は2016年の国民投票で離脱を決めました。当初は今年3月に離脱する予定でしたが、英議会が離脱案を3度にわたって否決し延期されてきました。

 今年7月に就任したジョンソン英首相(写真)は離脱条件をめぐりEU側と交渉を続けてきましたが、期限を目前にした17日に合意に達しました。最大のネックだったのが、北アイルランドの扱いです。英国がEUの関税同盟から脱退すると、北アイルランドと地続きのEU加盟国・アイルランド共和国との間に税関を設ける必要があります。今はEU加盟国同士で自由に行き来できますが、国境管理を厳しくすると、過去の紛争が再燃することが心配されているのです。

英国議会の承認は?

 そこで、新たな協定案では、北アイルランドをEU市場への「入り口地点」と位置づけ、通過する貿易の一部にはEUの規制や関税を適用することで、アイルランドのとの厳しい国境管理を避けることにしました。英国・EUの双方が譲り合って妥協した内容です。ただ、英国の議会がこの新協定案を承認するか見通しは立っていません。

 英国には1000社以上の日本企業が進出しています。今回の合意で経済的混乱を少しは抑えた離脱になるのか、「合意なき離脱」で大混乱に陥るのか。これからの離脱関連のニュースに注目してください。

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