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東京医科大学が入試で女子の得点を一律に減らし、女子の合格者が増えないよう調整していたことがわかりました。職業選択の機会を奪う、とんでもない男女差別です。どうしてこんな時代錯誤なことをしていたのでしょう? 企業の採用試験ではこうした差別ってないのでしょうか?(編集長・木之本敬介)
合格率「男子9%、女子3%」
下の円グラフを見てください。今年の東京医科大学の医学部医学科の一般入試は計2614人(男子61%、女子39%)が受験しましたが、マークシート方式の1次筆記試験で、女子の得点には一定割合の係数をかけて一律に減点。2次の面接と小論文、適性検査を経た最終合格者171人のうち女子は2割弱の30人で、最終合格率は男子9%に対し女子は3%と大きな差がありました。得点調整は長年行われてきましたが、2010年の入試で女子の合格者が38%に上がり、翌年からは係数を変えて女子の得点がさらに減るようにした結果、その後、女子の合格率が男子を上回ったことは一度もありません(上の折れ線グラフ)。大学関係者によると、女子の合格者数の目標は「全体の3割以下」。「女性は出産や子育てを機に医師をやめるケースが多い」からだと言います。東京医科大卒業生の多くは大学病院や系列の病院で働きますが、女性は当直や緊急手術のある外科や救命救急、地方への派遣を敬遠する傾向もあるそうです。
東京医科大だけじゃない?
東京医科大に限らず、女子が医学部に合格しづらいとの指摘は以前からあります。女性医師らでつくる「日本女性医療者連合」の対馬ルリ子理事は、今回の差別発覚に「やっぱりね、という思い」と語っています。文部科学省の調査によると、2016年春の医学部医学科志望者のうち、入学した割合は男子が6.85%に対し、女子は5.91%と1ポイント近い差がありました。他の学部では男女差がほとんどないか女子のほうが高いのに、医学部だけ違う傾向です(棒グラフ参照)。医師国家試験合格者に占める女性の割合も20年ほど約3割で横ばい。ある私立医大の幹部は「私の大学でも男女比の調整は行われている」と明かしました。実は、募集要項に男女比の調整を明記すれば、入学定員を男女ごとに設定することは可能です。女子大がたくさんあるほか、女性が少ない理系の学部で「女性枠」を設けて優先的に合格させる大学もあります。ただ辻村みよ子・明治大教授は、こうした特定の受験生を優先する「ポジティブ・アクション(積極的改善措置)」と、東京医科大のような一律の減点は根本的に異なると指摘。「女性医師が離職しないために両立支援策などが優先されるべきで、それと正反対の恣意的な性差別だ。憲法違反」と断じています。
女性医師の割合は世界標準の半分
厚生労働省によると、経済協力開発機構(OECD)加盟国の女性医師の割合は平均41.5%(2011年時点)。最高はエストニアの73.8%で、英国やドイツも40%超です。これに対し日本は21.1%(2016年)。ほぼ半分しかいません。海外では交代勤務制の導入が進んでおり、男性の育休など働く女性医師を支える仕組みが整っているからだとみられています。日本でも、国立の浜松医科大は、女性医師の増加にともなって出産後に復帰するときには業務量が少ない仕事や学生の指導担当を選べるようにするなど工夫していて、担当者は「うまく回っている。合格者の男女比を調整する必要はない」と話しています。
採用試験でも10年前には…
さて、みなさんが挑む企業の採用試験に同じような男女差別はないのでしょうか。かつては、女子学生はそもそも受けることもできないような企業がたくさんありましたが、1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから性差別は禁じられ、表向きは露骨な差別はできなくなりました。それでも、私が朝日新聞社の採用担当部長をしていた10年ほど前までは、他社の採用担当者と話していると「優秀な順に採っていくと女性ばかりになってしまうから、男子には下駄を履かせている」「女性の採用は3割以下に抑えている」といった声をよく耳にしたものです。
「働き続けやすい会社」見極めよう
しかし、時代は明らかに変わりました。女性の社会進出が進む一方、労働力人口が確実に減っていく中、「女性活躍」は政府の目玉政策にも掲げられ、結婚・出産後も女性が働き続けるのが当たり前になりつつあります。むしろ、真っ当な企業は優秀な女子学生をいかに多く採るかに躍起になっています。ただし、採用試験は会社の利益にかなう人材を採るのが目的。そこに明確な基準はなく面接を中心とした「総合判断」で決まります。「男女のバランス」も判断材料の一つ。個々の会社が実際にどんな判断を下しているのかは「ブラックボックス」ですし、差別が完全になくなったとも思いません。
就活生のみなさんがやるべきことは、目指す会社に結婚や出産、子育てをしながら働き続けられる職場環境が整っているかどうかを見極めることです。会社説明会での表向きの説明だけでなく、OB・OG訪問などで経験者の生の声を聞くのがポイントです。男性にも大いに関係がある話です。女性が働き続けやすい会社は、男性も仕事と家庭のワーク・ライフ・バランスが取りやすいはずですから。
(写真は、女子受験者の一律減点が発覚した東京医科大学)
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