2017年05月10日

文氏を大統領に選んだ「韓国の就職事情」とは?

テーマ:国際

ニュースのポイント

 韓国の大統領選で文在寅(ムンジェイン)氏=写真中央=が当選を確実にしました。今回の大統領選では、朴槿恵(パククネ)前大統領の退陣を求める大規模デモをはじめ、若者が大きなうねりを作り出しました。背景にあるのは10%近い若者の失業率の高さです。韓国の就職事情ってどうなっているのでしょう?(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、
・1面「韓国大統領の文在寅氏/9年ぶり革新政権へ/与党・洪氏らに大差/日韓合意巡り対立も」
・1面「天声人語」
・総合面(2面)「時時刻刻・『反朴』受け皿は文氏/前回12年惜敗 批判一貫」
・同(3面)「日韓 かすむ針路/慰安婦合意 再交渉も/安保・経済協力 不透明に」
・国際面(13面)「韓国経済 浮揚なるか/81万人雇用策 財源に懸念」
(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。

北朝鮮との対話重視

 今回の大統領選は、朴前大統領の支援者チェ・スンシル被告による国政介入疑惑で、前大統領が罷免(ひめん)されたことに伴うもので、異例の展開でした。文氏は革新系の最大野党「共に民主党」の前代表で、2代続いた保守政権に代わり9年ぶりの政権交代となります。

 文氏は弁護士出身。故盧武鉉(ノムヒョン)元大統領の側近で、盧政権では大統領秘書室長を務めました。2012年の前回大統領選では朴前大統領に敗れましたが、今回の国政介入疑惑では大統領の辞任を求める大規模集会に参加するなどして国民の支持を集め、2度目の挑戦で当選しました。

 文氏の主な対外政策はを見てください。北朝鮮問題では対話を重視し、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と「核問題の解決のために会わなければならない」とも発言しています。日本との関係では、2015年の慰安婦問題をめぐる日韓合意について再交渉を求めています。安倍政権は応じない構えで、日韓関係が悪化するかもしれません。

若者の失業率、最悪の9.8%

 大統領選につながったのが朴前大統領の辞任を求める大規模デモです。昨年12月3日には、ソウルで170万人、全国で232万人も参加したといいます。そこにはたくさんの若者がいました。彼らの怒りの背景には、韓国の就職事情があります。

 韓国の若者(15~29歳)の2016年の失業率は9.8%。調査開始の2000年以降最悪を記録しました。失業者数には含まれない求職者や就職浪人を加えた事実上の失業者は、全世代で450万人、若者で70万人近いといわれます。年齢分けは異なりますが、2016年の日本の若者の完全失業率は、15~24歳が5.1%、25~34歳が4.3%ですから、かなり高いことがわかりますね。
(写真は、ソウル中心部でのデモ=2016年11月12日)

厳しい韓国の就職事情

 この底流には、韓国経済を引っ張る財閥系の大企業と中小企業の格差という問題が横たわります。大企業の売り上げは韓国企業全体の6割以上を占めますが、従業員数は中小企業の約1400万人に対し約190万人。働く人の12%が6割以上を稼いでいることになります。大企業と中小企業の賃金格差は2倍以上。日本でも中小企業で働く人は7割を占めますが、大企業と中小企業の売上高はほぼ半々ですから、賃金格差も韓国ほど大きくありません。韓国は極端な大企業依存の経済なのに、そこで働ける人はわずかというややいびつな構造になっているわけです。

 この結果、何が起きているか。大手のサムスン電子や現代自動車、LG、ロッテなど財閥グループの正社員や、安定した公務員など、「より良い働き口」を求めて、激烈な競争が繰り広げられています。大学進学率は70%(日本は50%強)ですから「大卒でも半分が就職できない」といわれ、就職浪人も毎年多く出ているそうです。
(図は、2015年6月1日の朝日新聞から)

「雇用大統領」に注目

 文氏は「低成長、格差拡大、少子高齢化、青年たちの就職難、このような韓国のすべての危機の根源が雇用だ」と主張。雇用拡大を第一の公約に掲げ「雇用大統領」になると訴えて当選しました。その目玉が公共部門を中心に81万人の雇用を生み出すという公約です。消防官や警察官、社会福祉専従公務員を増やしたり、公共部門で危険業務に携わる労働者の間接雇用に切り替えたり。必要な財源は5年間で約21兆ウォン(約2兆1000億円)と見込みますが、実現性を疑問視する声も多くあります。

 緊迫している北朝鮮との関係や、日韓関係がどうなるかはとても大切ですが、この機会に隣国の同世代の就職事情も知っておきましょう。比較することで、日本経済の特徴や強さも見えてきますよ。
(写真は、ソウル中心部の広場で文在寅氏当選確実のニュースに歓声を上げる支持者ら=9日)

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