2017年04月05日

日銀の「金融緩和」から4年、失敗なの?

テーマ:経済

ニュースのポイント

 みなさん、普段どこでどんな風に買い物をしていますか? 我が家では、日用品や文房具は100均で、服はファストファッションのセール、食品や飲み物はコンビニやスーパー、ちょっと高い物の時は、あらかじめネット検索で最安値をチェックしてから通販で買うことも。外食する時は、なるべくコスパのいい店を探し、表示か税込みか税抜きかメニューを選ぶ段階で確認しています。消費者としては、物価は少しでも安い方がありがたいです。
 でも、物価が下がり続ける「デフレ」の状態が続くと、国全体の経済としては実はよくないのです。物を作ったりサービスを提供したりしている企業がもうからないと、社員の給料も減ってしまいます。給料が減ると物が買えなくなります。物が売れなると物の値段がまた下がっていき、企業の利益と社員の給料が減り・・・・・・。この悪循環が「不景気」です。物価がある程度の水準を保っている方が、経済は安定するのです。日本銀行(日銀)が「デフレからの脱却」を目指し、異例の金融緩和を始めてから4年が経ちました。今までいろんな対策を繰り出しましたが、物価は思うように上がっていません。今までの金融緩和を振り返り、今後どうなりそうか考えてみましょう。(あさがくナビ副編集長・山口 真矢子)

 今日取り上げるのは、朝日新聞2面の「いちからわかる!大規模な金融緩和4年 効果はあったのか」経済面(9面)「黒田緩和 見えぬ『出口』/5年目に物価上昇見通せず」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
(写真は、日銀の黒田東彦総裁です)

最初の目標は「2年で物価上昇率2%」だったが・・・

 「金融緩和」は難しい話題ですが、みなさんが就職する企業の業績やみなさんの生活全体を左右することなので、基本的なことをおさえましょう。
金融緩和は、アベノミクスの3本柱の一つです。日本では、物価が下がって景気が悪くなる「デフレ」の状態が長年続いてきました。そこで政府は、デフレから脱却して景気をよくするため、「物価上昇率を2年間で2%まで上げよう」という目標を立てました。2013年4月に日銀は、「異次元金融緩和」をスタート。なぜ「異次元」と言われるかというと、社会に流通するお金を増やす量が「今までと次元が違う巨額なもの」だからです。

今までどんなことをしてきたか?

 日銀が描いた「金融緩和をすれば景気がよくなる」という理屈は、次のような仕組みです。
 まず、日銀が民間銀行などからすごい量の国債を買い上げ、代わりにお金を銀行に払います。すると各銀行の手持ちの現金が増えるため、そのお金を企業などに貸し出そうとするようになります。銀行から企業に貸し出すときに、返してもらう金額が同じだったら銀行のもうけが出ないので、「返すときはこれだけの額を上乗せしてね」と企業と約束します。「これだけの額」が金利です。金利が安くなればそれだけ、「お金を借りて新しい事業をしてみようかな」と思う企業が増えるはずです。企業を通して世の中に大量のお金が出回れば、その分お金を持っている人が増え、買い物をしようとする人も増えるはず――。これが金融緩和の理屈です。買い物をする人が増えて消費が増えれば物の値段が上がっていき、企業のもうけが増えて企業の社員の給料が増えて、ますます消費者が物を買うようになって・・・。いずれデフレから脱却!という仕組みです。

 日銀総裁の黒田東彦氏が金融緩和を始めた2013年4月は、金融機関を通して社会にお金を流す量を増やすことで、「2年で物価上昇率2%」という目標を掲げました。2%は強気の目標でした。始めた当初は景気がよくなり物価が上昇したのでうまくいきそうでしたが、2014年春に消費税が8%に上がってからはまた消費が冷え込み、物価が下がったまま戻らなくなってしまいました(グラフ参照)。

次の手は「マイナス金利」

 社会に出回るお金の量を増やそうとしても、銀行が企業に貸し出さなければ、社会に出回るお金の量は増えません。日銀が次の手として2016年1月に打ち出したのが、「マイナス金利政策」でした。私たちが銀行にお金を預けると利息がつくのと同じように、民間銀行が日銀にお金を預けると利息がついていきます。しかし日銀は、「銀行がウチにお金を預けたままにしておくと、利息をマイナスにしますよ」と決めたのです。つまり「日銀にお金を預けたままではかえって額が目減りしますよ。各銀行さんは、こちらに預金せずに企業などにどんどん貸し出してね。そうすればきっと景気がよくなるから」という目論見でした。
 しかし、ここで落とし穴が。金利収入でもうけている銀行や保険会社などが業績悪化に陥るようになってしまいました。年金や保険を運用してもうけている金融機関が企業に貸し出す金利も下がり、ついには長期の貸し出しに関する金利までマイナスになったのです。一般に金融機関は、一つの組織にお金を長く貸し出すほど、返してもらう時に受け取る金利の額が増えます。「貸し出す期間を長くしてあげるからその分でもうけてね。その代わり利息をたくさんつけて返してね」ということです。金融機関にとっては、長期で貸し出す代わりにたくさん利益を上げてくれる企業を見つけることが大事です。ですから、もうかるはずの長期金利までマイナスになると、金融機関はたいへん困ります。そこで2016年9月、日銀は「長期金利の方は、マイナスじゃなくてゼロ%程度にとどめる」という別の政策も始めました。

就活生にとっても大問題

 「金利」は「お金を借りるときの値段」です。日銀は当初、お金の値段を下げればそれだけ借りてくれる企業が増えるはずだと予想しました。しかしそうはなっていません。
 みなさん自身にあてはめて考えてみてください。お金をたくさん持ってそうな友だちからお金を借りようとしても、返せるあてがなければ借りようとはしないでしょう。企業も同じです。お金を借りて新しい事業を始めようとしても、その事業を成功させる自信がなければ無理をして借りようとはしないでしょう。つまり、お金を借りるときの値段を下げるだけでは企業の利益は上がらないし、物の値段も上がらないわけです。大切なのは「新しい事業に取り組む姿勢」と「取り組むに足る新しい事業」が増えていくことです。
 問題は、「いつまで金利を下げ続けるの?」という疑問に、はっきりした正解はないということでしょう。「金利を下げてももう無駄だからやめよう」という考えもあるし、「もっと下げればうまくいくはずだ」という考えもあり得ます。「異次元の金融緩和」は、始めるのも大変ですが、終わらせる時がとっても大変なのです。
 金融緩和の話は、「仕組みが難しいから自分には関係ない」と思ってしまいがちですが、実は、就活をしている皆さんの中に、まったく関係がない人はいないと言ってもよいでしょう。日銀の金融緩和政策が、自分の志望する業界にはどう影響するのか・・・。考えるきっかけにしてみてください。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

テーマ別

月別