2017年02月01日

トランプ大統領の入国禁止令に世界が反発…日本は?企業は?

テーマ:国際

ニュースのポイント

 トランプ米大統領が出した中東・アフリカ7カ国からの入国を禁止する大統領令に対し、世界に反発が広がっています。米政府内やトランプ氏に近い企業からも批判の声が上がり始めました。日米首脳会談を控えた安倍晋三首相は論評を避けています。ひとごとでなく、自分ごととして考えてみてください。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、1面トップの「入国禁止 広がる反旗/米国務省・州政府・企業も/トランプ氏司法省トップ解任」、総合面(2面)「トランプの時代・米政権『身内』から批判/大企業『様々な人いてこそ』」、同(3面)「米を刺激 避ける首相/入国禁止 首脳会談へ『信頼』重視/移民論争 かわす思惑も」(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。

大統領令の内容は?

 「外国テロリストの入国からの米国の保護」と題された大統領令の主な内容は表を見てください。90日間の一時入国禁止の対象はシリア、イラク、イラン、リビア、ソマリア、スーダン、イエメンの7カ国。トランプ氏は今回の措置は「テロ対策」で宗教とは関係ないと強調していますが、いずれもイスラム教徒が大半を占める国ですから、「イスラム教徒狙い撃ち」との批判が広がっています。

「移民の国」アメリカ

 米国は建国以来「移民の国」で、移民を除いたら先住民しか残らないともいわれます。難民の受け入れにも積極的で、米国務省によると1975年以降、計300万人以上の難民を再定住させてきました。2001年の米同時多発テロの直後は落ち込みましたが、その後再び拡大。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2015年の米国の再定住は世界全体の6割以上を占めました。オバマ政権は、2016年会計年度にシリアからの難民約1万人を含む約8万5000人を受け入れ、2017年会計年度は目標を11万人に設定していましたが、トランプ氏は大統領令で5万人以下に抑制する方針を示しました。

企業も声上げる

 入国禁止の大統領令に対し、米国内での批判が高まっています。ニューヨーク、カリフォルニアなど15州と首都ワシントンの司法長官が、大統領令は違憲で違法だとし「宗教的自由はこれまでもこれからも我が国の鉄則である。この真実を、いかなる大統領も変えることはできない」と批判。米司法省のトップは「大統領令が合法だという確信がない」と異論を唱え解任されました。

 企業も声を上げています。トランプ政権に多くの幹部を送り込む金融大手ゴールドマン・サックスの最高経営責任者(CEO)が従業員へのメッセージで「多様性は我が社の証し。この政策は支持しない」と批判したといいます。米ゼネラル・エレクトリック(GE)、自動車大手フォード・モーターなど比較的トランプ政権に近い企業のトップからの批判も相次いでいます。

 世界中から優秀な技術者を集めて成長したといわれる米シリコンバレーのIT企業も批判しています。アップルのティム・クックCEOは社員向けメッセージで「アップルは、この政策を支持しない。アップルは移民なしに成り立たない」と書き、最後にマーチン・ルーサー・キング牧師の「我々はみな別々の船でやってきた。しかし、今は同じボートに乗っている」との言葉を引用しました。フェイスブック(FB)のマーク・ザッカーバーグCEOは自身のFBに投稿。自らと妻も移民の子孫だと説明し、「米国は移民から成る国で、我々はそれを誇りにすべきだ」「世界中から集まる優秀な人たちがここ(米国)で生活し、働き、貢献することが、我々の利益にもなっている」などと述べました。日本の企業では、楽天の三木谷浩史社長が入国禁止を「許されないと思う」とツイッターに投稿し、通話アプリで米国と7カ国間の国際電話を無料にすると表明しました。

 ただ、7カ国からの一時入国禁止や難民受け入れ停止の大統領令についてロイター通信が全米50州で実施した世論調査では、49%の人が賛成し、反対の41%を上回りました。米国世論はまさに「分断」の様相です。

日本は……

 欧州を中心に批判は世界に広がっています(表参照)。日本はどうでしょう? 安倍首相は「各国の入国管理政策は基本的には内政事項で、直ちにコメントすることは差し控えたい」と述べるにとどめました。トランプ氏との初の日米首脳会談が10日にあります。トランプ氏が日米の貿易不均衡を批判していることもあり、刺激しないようにしているようです。

 今日の記事で、安倍首相が「沈黙」している理由として挙げているのが「移民の是非」論に踏み込みたくないのではとの指摘です。欧州諸国と違い、日本は移民を受け入れず、難民にも厳しい姿勢です。2015年は7586人の難民申請に対し、政府が認定したのは27人だけでした。閣僚経験者は「移民を受け入れていない日本はトランプ氏の対応にとやかく言えない」と語りました。

 「移民・難民受け入れの是非」は日本の国論を二分しかねないテーマです。トランプ氏の不寛容な政策も、けっして私たちと無縁ではありません。日本はどうなのか、ぜひ身近な問題として考えてみてください。

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