ニュースのポイント
英国のメイ首相が、欧州連合(EU)から完全離脱すると表明しました。「人、モノ、サービス、資本」の自由な行き来を原則とするEUの「単一市場」から抜ける一方、EUとの新たな自由貿易協定の締結を目指します。英国に欧州の拠点を置く多くの日本企業に大きな影響が及びそうです。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面トップの「英、EU完全離脱を表明/移民規制優先、単一市場脱退へ」と、総合面(2面)の「時時刻刻・英、強気の離脱計画/『偉大な貿易国家』」目指す」(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。
経緯のおさらい
ブレグジット(Brexit)は、英国(Britain)と脱退(exit)合わせた造語です。今回の方針は、「ハード・ブレグジット(強硬な離脱)」と呼ばれています。
これまでの流れを簡単におさらいします。英国では東欧のEU新規加盟国などからの移民が増えて、職を奪われる不安や住宅不足、無料の国民保健サービスを圧迫するとの懸念、さらにEUによる国家主権の制限に不満が高まり、2016年6月に国民投票を実施。大方の予想を覆して離脱が多数を占めました。
EUの「四つの自由」
EUは、「人、モノ、サービス、資本」の四つの移動が自由な「単一市場」を形成していて、商品やサービスが関税や輸出入に伴う煩雑な手続き・検査なしに自由に行き来できます。ここから抜けるとEU加盟国との経済活動がこれまでのようにはできなくなることから、英国は「EU単一市場への自由なアクセス」の維持と、「移民の流入規制」の二つを実現する道を模索してきました。しかし、EU側にすればこれは恩恵だけを一方的に享受すること。認めれば他の加盟国にも脱退の動きが広がりかねません。「四つの自由」は不可分として、「いいとこ取りは許さない」と主張してきました。
このため、メイ首相は17日の演説で「半分残り、半分出るようなことはない」と完全離脱を明言。「EU離脱は、欧州から英国にやってくる人の数をコントロールすることを意味しなければいけない」と述べました。「単一市場」参加よりも移民規制を優先した形です。
一方でメイ首相は「単一市場に可能な限り最大限のアクセスができるようにする」とも語り、EUと包括的な自由貿易協定を結ぶ方針を示しました。関税なしで物品を輸出入できたり、EU域内で金融などのサービスを提供できたりすることを目指します。ただ、EUに加盟していないスイスの場合、EU側と個別分野で交渉を重ねて物品への関税は抑えられていますが、金融などサービスの取引は大幅に制限されています。金融にはEU加盟国で許可を取れば域内で自由に営業できる「シングルパスポート制度」がありますが、離脱すれば英国に拠点がある金融機関は他の加盟国に拠点を置いて許可を取り直す必要があります。
対応迫られる日本企業
英国には1000社以上の日本企業が進出しています。多くは欧州の拠点ですが、これまでのようにEUとの間で自由な経済活動ができなくなるかもしれず、対応を迫られています。
今日の記事からピックアップすると――
◆三井住友銀行→ロンドンに欧州統括の拠点を置いている。幹部「現地法人を英国以外につくることを検討」とコメント。
◆三菱東京UFJ銀行→英国以外の欧州統括機能をオランダの現地法人に集約することを決めている。広報担当者は「英国に進出している日本企業への影響を注視」とコメント。
◆日立製作所→英国に鉄道車両工場を持ち原発建設も進めている。関税や為替の動向によっては、部品調達先をEUから英国内に切り替えることも検討。
◆トヨタ自動車→英国に欧州の主力工場の一つがある。工場の撤退は避けたい考えだが、社内には「今後、高額な関税がかかる場合にどう対応するのかなどを検討しないといけない」との声も。
困惑している様子が伝わってきます。離脱交渉は原則2年なので、実際に離脱するのは早くても2019年春。日本企業も今後の交渉を注視しています。
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