ニュースのポイント
先週の日ロ首脳会談では、北方領土で「共同経済活動」を行うための協議開始で合意しましたが、肝心の領土問題には進展がありませんでした。このため会談の評価は分かれています。会談ではエネルギー、都市インフラ整備など「8項目の経済協力プラン」(
表)に基づき80件の事業を進めることでも合意。医療、農業など幅広い分野で、関連企業にとってはビジネスチャンスです。こうした最新のニュースと業界や企業の関わりを知っておくと、企業研究が深まるうえ熱意も伝わりますよ。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、総合面(3面)の「日ロ領土交渉『進まず』70%/本社世論調査/カジノ法『反対』64%」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。
世論の評価は?
17、18日に実施した朝日新聞社の全国世論調査で日ロ首脳会談について聞きました。会談全体については「評価する」が45%、「評価しない」が41%で拮抗(きっこう)する一方、北方領土問題の交渉については「進まなかった」が70%を占め、「進んだ」は27%にとどまりました。北方領土の今後については、「歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の2島を先行して返還させ、残りは引き続き協議」が51%で、「4島一括返還」の18%、「返還を求めない」の9%を上回りました。
(写真は、首脳会談後に共同記者会見をした安倍晋三首相=右=とロシアのプーチン大統領)
日ロ合意と基本的な食い違い
安倍首相とプーチン大統領の首脳会談の合意のポイントは
表を見てください。日ロの基本的な立場を整理すると、北方領土は「日本固有の領土」であり4島の帰属の問題を解決して平和条約を結ぶというのが日本の立場です。これに対し、ロシアは1956年の日ソ共同宣言に基づき、日ロ平和条約を結んだ後、歯舞、色丹の2島を引き渡すが、主権まで渡すかはわからないという「0島返還」の姿勢を崩していません。
今回の会談で領土問題は一歩も進みませんでした。安倍首相は、これまでの膠着(こうちゃく)状態を打破しようと経済協力のプランを提示。具体化への協議を始めることで合意しました。「平和条約締結に向けた信頼醸成」(首相)を目指す姿勢です。このため世論調査でも、首相のこの姿勢はある程度評価するが、領土交渉は進まなかったという結果が出たわけです。
実現には課題山積
北方四島での共同経済活動が簡単に実現するわけではありません。ロシア政府は「ロシアの法律に基づいて行われる」と主張しますが、日本政府はロシアの主権下での活動を認めるわけにいかないからです。四島を「特区」にするなどして、日本人がロシアの法律の適用を受けないようにすることが考えられていますが、投資など商業活動のための法整備や犯罪が起きたときの裁判管轄権など整理が必要な法的課題が山積みです。共同経済活動が進んだとしても、領土問題に進展がなければロシアの「いいとこどり」になりかねませんから、慎重さが必要です。
商社、プラント、電機、メガバンク…自動車は?
一方で、ロシアの極東開発が中心の「8項目の経済協力プラン」には、日本の経済界の期待が高まっています。
表にあるとおり、三菱商事、三井物産、双日、丸紅といった商社、プラントの日揮、東芝、富士通などの電機関係が目立ちます。
液化天然ガス(LNG)開発では、生産量を今の1.5倍の年1500トンに増やす計画で、LNG輸出を増やしたいロシアにも、資源の調達先を多角化したい日本にもメリットがあります。医療分野では、日揮がハバロフスクにある野菜工場の拡張やウラジオストクでのリハビリ施設建設などで地元自治体と合意しています。
メガバンクは対応が分かれました。三井住友銀行とみずほ銀行などはロシア国営の天然ガス大手ガスプロムに約8億ユーロ(約970億円)の協調融資を決めましたが、三菱東京UFJ銀行は参加を見送りました。三菱は3メガバンクの中で米国での事業が大きいため、対ロシア制裁を強める米国政府ににらまれるのを避けたとみられています。
今回、自動車は目立ちません。トヨタ自動車、日産自動車、マツダなどがロシアに現地工場を持っていますが、消費低迷で生産台数は減っていて新たな展開は難しそうです。
こうしたニュースから、各企業がどこに力を入れているかがわかります。同じ業界でも企業による違いを知るようにしましょう。
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