2016年12月21日

シリア内戦が生んだテロ…続く憎しみの連鎖

テーマ:国際

ニュースのポイント

 トルコの首都アンカラで駐トルコ・ロシア大使が警察官の男に銃で撃たれて死亡、ドイツの首都ベルリンでは大型トラックが買い物客らでにぎわうクリスマス市(いち)に突っ込み、12人が死亡しました。いずれもテロとみられ、もとをたどるとシリアの内戦に関係している可能性があります。いま世界中を揺るがしているシリア内戦の構図は複雑です。この機会に知っておきましょう。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、1面の「ロシアの駐トルコ大使射殺/プーチン大統領 トルコ非難せず」、同じく「天声人語」、総合面(2面)の「シリア介入への報復か/ロシア台頭に反発も」(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。
(写真は、激しい空爆を受けたシリア北部のアレッポの街=8月11日、マナル・アフマドさん撮影)

シリア内戦とは

 「アラブの春」と呼ばれる中東各国での民主化運動の影響で、シリアでも2011年3月から民主化要求デモが激化、政権は武力弾圧をしました。政権軍を離反した兵士らが「自由シリア軍」を結成し内戦となりました。内戦による死者は30万人以上、人口約2200万人の半数が家を追われ、国外に逃れた難民は約480万人、国内避難民は約650万人にのぼり、「21世紀最悪の人道危機」と言われています。

「米ロの代理戦争」

 内戦の構図は複雑です(参照)。ロシアがアサド政権を支え、米国や欧州各国、トルコなどの「有志連合」は反体制派を支援。「米ロの代理戦争」とも言われています。シリアに軍港をもつロシアはアサド政権と親密ですが、欧米は政権による大規模な市民虐殺があったとして退陣を求めてきました。

 イスラム教の宗派対立も絡みます。アサド大統領はイスラム教少数派のアラウィ派です。シーア派政権のイランが「非スンニ派」の貴重なパートナーとして支持、スンニ派のサウジアラビアは反体制派を支援しています。「イスラム国」(IS)などの過激派組織、少数民族クルド人の勢力も入り乱れています。トルコは自国内に分離独立を求めるクルド人勢力を抱えており、シリアのクルド人組織とも対立しています。

今回のテロとシリア内戦の関係は?

 今回のテロと、シリア内戦はどう関わるのでしょうか。トルコでのロシア大使射殺事件で、銃撃した容疑者は「アレッポを忘れるな。シリアを忘れるな」と叫びました。シリア内戦に軍事介入したロシアへの報復だった可能性があります。アサド政権はロシアの空爆支援などを得て、北部の最大都市アレッポを制圧したばかりで、市民にも多くの犠牲者が出たといわれています。今日の「天声人語」は、このアレッポの悲劇を書いています。

 ドイツの事件では難民申請中のパキスタン人が拘束されましたが、証拠不十分で釈放され、容疑者は特定されていません。一方でIS系の組織が「IS戦士が実行した」とする事実上の犯行声明を出しました。ドイツは欧州の難民受け入れの中心的な国です。メルケル首相は2015年夏、シリアなどから押し寄せる難民らに国境を開放し、100万人以上を受け入れました。ところが今年7月、南部のミュンヘンなどで襲撃事件が起きるなど、フランスやベルギーで起きていたテロがドイツにも及び、難民排斥を訴える声が強まっていたところでした。

ISは米国が生んだ?!

 今年の夏には、アレッポの空爆で破壊されたアパートから助け出された血まみれの5歳の男の子の映像がSNSで投稿され、世界に衝撃を与えました。空爆に対する報復でロシアの大使が射殺され、ロシアのプーチン大統領はトルコのエルドアン大統領に電話で「対応策はおそらくただ一つ。テロとの戦いを強化することだ」と語りました。

 以前、今日の朝刊「『イスラム国』はアメリカが生んだ⁈」(2015年2月4日)でこんな流れを書きました。
◆イラクのクウェート侵攻による湾岸戦争(1990年)➡米軍がイスラム教の聖地があるサウジアラビアに常駐したことなどに国際テロ組織アルカイダが反発、米同時多発テロを起こす(2001年)➡米軍主導でアフガニスタン戦争(2001年)とイラク戦争(2003年)➡反欧米を掲げるイスラム過激派組織が勢力を伸ばし「イスラム国」建国を一方的に宣言(2014年)

 こうした憎しみの連鎖を断ちきるために、日本の学生にできることは何でしょうか。まずは世界で何が起きているのか、知ることから始めてください。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

テーマ別

月別