2016年12月06日

「反エスタブリッシュメント」って? 欧米の若者が怒ってる!

テーマ:国際

ニュースのポイント

 イタリアで憲法改正を問う国民投票が否決され、レンツィ首相=写真=が辞めることになりました。英国の欧州連合(EU)離脱、米国のトランプ新大統領誕生に続く、「反既成政治」「反既得権層(反エスタブリッシュメント)」のうねりだと言われています。みなさんと同世代の若者も怒っています。欧米で何が起きているのでしょう。わかりやすく解説します。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、1面の「イタリア国民投票否決 首相辞意/反既成政治 広がる欧州」、総合面(3面)の「分断 不満 渦巻く欧州」、オピニオン面(18面)の社説「欧州の混迷/政治不信の直視を」(いずれも東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。

イタリアで何が起きた?

 まずはイタリアで起きたことから。イタリアの国会は、上院と下院がほぼ同じ権限をもっていてねじれが生じやすく、なかなか物事が決まりません。そこでレンツィ首相は、上院の定数減などで実質的な「一院制」に近づけて、改革を進めやすくする憲法改正案を国民投票にかけました。ただ、首相が「否決なら辞任する」と宣言したため、争点はEU重視の姿勢をとる政権の信任投票に。結果はほぼ6対4で反対が上回り、否決されたのです。

「エスタブリッシュメント」って?

 今回の結果は、EU離脱を決めた英国の国民投票、トランプ氏が当選を決めた米国の大統領選と同じ流れだと言われます。キーワードは、今日の記事に何度も登場する「反既成政治」「反既得権層」です。

 「既成政治」とは、すでに出来上がっている今の政治体制のこと。「既得権層」は「エスタブリッシュメント」とも呼ばれ、既成の秩序や権威、体制で権力や支配力をもつ階級や組織、特権階級や勢力のことです。つまり、今の社会構造で成功し、政治や経済を動かしている人たちですね。

 米大統領選では、ヒラリー・クリントン氏が「既成政治」「エスタブリッシュメント」の代表選手とされ、トランプ氏は「反エスタブリッシュメント」「反ワシントン」「反エリート」を掲げて勝ちました。欧州では、EUという体制そのものが既成政治とみなされています。

グローバル化と格差拡大

 英国でも米国でもイタリアでも、「反既成政治」「反既得権層」が勝利しました。わかりやすく言えば、今の政治や経済の構造を根本的に変えてほしいという流れが強まっているということです。今の世界を象徴するのが「グローバル化」と「格差拡大」です。モノや人が自由に行き交うグローバル化が進む中、大もうけする一部の人たち=エスタブリッシュメントと、その恩恵にあずかれないその他大勢の層の貧富の格差が世界中で広がり、不満が高まっているわけです。

 加えて、難民や移民が大勢押し寄せて仕事を奪われているという「反難民」「反移民」感情も、欧米ともに強まっています。そこで、欧州では「反EU」を掲げる右翼政党などが勢力を伸ばしています。

4割近い若者の失業率

 若者も怒っています。イタリアの地元テレビの出口調査では、今回の国民投票で若者の約8割が「反対」に投票しました。豊かな北部と貧しい南部という地域格差に加え、既得権益の壁に阻まれて若者が職に就けない世代間格差が指摘されていました。イタリアの25歳未満の失業率は36.4%。なんと3人に1人を超えています。日本では5%ほどですから、いかに高いかがわかりますね。

 米大統領選でも民主党の候補者選びで、サンダース氏が高い学費と就職難に苦しむ若年層の支持を集めました。欧米の同世代の若者がどんな状況に置かれ、何を考えているのか、こうしたニュースを通じて知ることができます。

 にあるように、欧州ではこれからもオランダ、フランス、ドイツと大事な選挙が続きます。ぜひ注目してください。

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