2016年11月15日

東ロボくん、東大断念!AIにできない仕事見えた!?

テーマ:科学技術

ニュースのポイント

 東大をめざしてきた人工知能(AI)「東ロボくん」(写真)が「合格」をあきらめました。MARCH、関関同立クラスに合格する力はあるのですが、英語や国語の成績が伸びず、苦手を克服できませんでした。「意味」を理解できないのが原因だそうです。「今ある仕事の半分はAIに奪われる」と言われていますが、東ロボくんの限界から、人間にしかできないこと、人間がやるべきことが見えてきました。ポイントは、リアルな体験と深い推論、そして読解力です。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、社会面(38面)の「東ロボくん 東大届かず/13年度から挑戦 人工知能/英語克服できず」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)です。

「東ロボくん」って?

 「東ロボくん」は、国立情報学研究所が中心になって取り組んでいるプロジェクトです。大学入試問題を解く人工知能で、2013年度から毎年、大学入試センター模試を受けてきました。あらかじめ覚え込ませてある教科書や辞書、ウェブ上にあるデータをもとに、問題の意味を考え、制限時間内に解答します。試験中にネット検索をするような「カンニング」はなし。優れた人工知能を開発し、限界や可能性を探るのが目的です。大学入試問題は点数と偏差値で成果を測りやすいため、最難関の東大合格を目指しました。

得意科目は世界史、英・国が苦手

 5教科8科目の偏差値は2013年45.1、14年47.3、15年57.8。順調に成績を伸ばしてきましたが、今年は57.1と初めて下がりました(科目別の成績は参照)。東大には届かなかったものの、23の国立大を含む535大学1373学部の合格率が80%以上で、MARCHや関関同立クラスも含まれています。

 東ロボくんは膨大な情報をもとに解答する世界史が得意です。数学、物理も偏差値は50台後半でした。一方で、英語はリスニング、筆記とも苦戦し、国語も50を下回りました。複数の文章を総合的に理解して解答するのが苦手。成績が伸びなかったことでAIの可能性や限界が見えたとして、東大合格への挑戦は当面中断し、今後は得意分野を伸ばして産業応用レベルに高めることを目指すそうです。

 プロジェクトリーダーの新井紀子・国立情報学研究所教授(写真下)によると、AIは言葉のパターンを見て統計的に正しそうな答えを返しているだけで言葉の意味を理解しているわけではないそうです。新井さんは朝日新聞デジタルへの寄稿で「深層学習(ディープラーニング)を含む現状の技術の延長線上では、AIが東京大学に合格する日は永遠に来ないだろう」と書きました。

大事なのは実体験、想像力、推論力、読解力…

 野村総合研究所は昨年「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」というショッキングなリポートを発表。10~20年後に人工知能やロボットにとって代わられる100種の職業を例示しました。このコラムでも、AIにできない仕事かどうかを考えようという話を何度か書いてきました。

 新井さんの言葉に、人にしかできない仕事のヒントがありそうです。これまでの朝日新聞の記事や今日の寄稿から、新井さんのアドバイスをお伝えします。
・「自らの実体験に基づいて想像力を働かせ、未知の世界をより深くイメージできる力(が必要)」
・「実体験に基づいた論理的な推論力がないと、AIを超えることはできない」
・「人間がAIと違うのは高度な読解力があること。読解力は、AIやロボットと将来仕事を分け合う可能性のある子どもたちにとって、何より大切」
・「AIには弱点がある。それは彼らが『まるで意味がわかっていない』ということだ。問題を解いても、会話をしても、珍しい白血病を言い当てても、意味はわかっていない。逆に言えば、意味を理解しなくてもできてしまう仕事は、遠からずAIに奪われる」
 
 リアルな実体験に基づく想像力や推論力、読解力がキーワードです。これからの仕事選びの参考にしてください。

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