ニュースのポイント
世の中の役に立ちたくて、「社会貢献」を軸に企業選びをしている人も多いと思います。ただし企業は利益を上げてなんぼの世界なので、ビジネスの視点抜きの社会貢献はあり得ません。環境や貧困など社会問題の解決とビジネスは両立するのでしょうか。「社会問題の解決は大きなビジネスチャンス」ととらえる考え方が広がっているようです。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、「朝日地球会議2016」の特集(19~21面)のうち、20面の「ソーシャルビジネスとBOPビジネス/途上国の社会問題 ビジネスで貢献」と「講演 ユニリーバ――企業の力で社会を変える/
持続可能性 企業活動のメインに」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
「社会貢献」を前面に出しすぎると…
先日、東京の大学で業界・企業研究について講義した後、女子学生からこんな質問を受けました。
「CSRを担当する部署で働きたいのですが、そういう志望で通るでしょうか」
CSRは「企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)」の略で、「企業は利益の追求だけでなく、環境保護・人権擁護・地域貢献など社会的責任を果たすべきであるとする経営理念」(広辞苑)。そこに関わりたいというのは素晴らしいことですが、企業は利益の追求が第一ですから、採用試験でCSRや社会貢献を前面に出して強調しすぎるのは得策ではないと答えました。
500兆円の巨大市場
世の中に必要ないものは売れませんから、企業も何らかの形で社会の役に立ってはいるのですが、貧困や環境など国や自治体が取り組んできた社会問題にも、多くの会社がビジネスとして関わり始めたというのが今日の記事です。
焦点は、年間3000ドル(約30万円)以下で暮らす「ベース・オブ・ピラミッド(BOP)」層です。世界人口の7割を占め、市場規模は5兆ドル(約500兆円)といわれています。こうした貧しい人たちの暮らしや健康に役立つモノを普及させられれば、社会問題解決とビジネスは両立します。今、世界の多くの企業が「BOPビジネス」に参入しています。
ユニリーバの取り組み
ユニリーバ・ジャパンのフルヴィオ・グアルネリCEO(最高経営責任者)は、企業の成長と持続可能性を両立してきたユニリーバの取り組みについて講演しました。
ユニリーバの原点は1880年代、ひどい衛生状態だった英国でせっけんを普及させたこと。今は190カ国で事業を展開し、途上国でも10億人以上が手を洗っています。環境問題では、工場から出る二酸化炭素やゴミを減らし、同社のリプトン紅茶などの食品の原材料は、環境負荷の少ない農家から調達し、持続可能性を重視しているそうです。
グアルネリCEOは「多くの企業は、持続可能性を副次的な活動だと考えているが、私たちはメインに据えている」と言い、気候変動や水不足などの課題を解決しなければ「ビジネスそのものができなくなるかもしれない」とも語っています。「BOPビジネス」に参入する日本企業はこれから増えるでしょう。
(ユニリーバは、製品の原材料として使用する農産物の全てを、持続可能な調達でまかなうことを目指している=写真・ユニリーバ提供 )
志望企業の取り組みを調べよう
「朝日地球会議2016」(朝日新聞社主催)は、「環境その先へ 持続可能な社会の実現」をテーマに、国内外の識者が地球規模の課題を話し合って解決の道筋を探る国際シンポジウムで、10月2~4日に東京で開催しました。イオン環境財団、NTTグループ、大塚家具、サントリーホールディングス、凸版印刷、トヨタ自動車、パナソニックが特別協賛、TOTO、山野学苑が協賛しました。
名を連ねたのは、地球規模の課題に様々な形で貢献している企業です。自社のホームページ(HP)で、取り組みを紹介している会社もあります。これ以外にも、社会問題解決に積極的に取り組んでいる企業はHPなどに掲載していると思います。志望する企業を調べてみましょう。
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