2016年08月26日

「ホンダらしさ」復活?企業のブランドイメージ見極めよう(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 ホンダが2人乗り高級スポーツカー「NSX」を売り出しました。2370万円と日本車では最高価格の車になります。でも、手間がかかる一方、たくさん売れる車ではなく、採算はとれそうにありません。なぜそうした車を開発したのでしょうか。それは、「ホンダらしさ」を守ろうとしたからです。ホンダはとんがった車を作る会社というイメージがあります。それがとんがった人材を集め、独創性のある車作りにつながってきました。NSXはそうしたホンダのブランドイメージを守るために売り出すのです。会社には、「らしさ」が必要です。しっかりしたブランドイメージがあるかどうか、ブランドイメージを守るために努力しているか、は会社選びで大事な視点になります。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、13面の「ホンダ、新『NSX』発表/高級スポーツカー約10年ぶり復活」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。

初代は世界初の総アルミボディー

 今度のNSXは2代目です。初代は、1990年に売り出されました。私は当時、自動車担当の経済記者でしたので、発表会に行きました。とてもびっくりする車でした。ボディーはすべてアルミニウムでつくられています。総アルミボディーの車は世界ではじめてでした。車体を軽量化して、スピードが出るようにしたのです。鉄と同じ強度にするためアルミを厚くしても、総重量で鉄を使った場合に比べて200㎏も軽くなりました。アルミの値段が高いこともあり価格は800万円以上になって、バブル真っ盛りの当時としても高い車でした。レーシングカーのようなスタイルも含めて、「ホンダらしいとんがった車だな」と感じたことを思い出します。この初代は2005年に生産が終了しました。
 11年ぶりに登場した2代目は、もっととんがっています。価格が2370万円であるのもそうですが、初代が年間6000台の販売を目標にしていたのに対し、2代目は日米で900台。多くの人に乗ってもらおうという気は最初からないのです。ドイツの高級スポーツカーメーカー、ポルシェに対抗できる車を作るという意気込みだけで作ったのだと思います。

「ホンダらしさ」とは

 その狙いは「ホンダらしさ」の維持でしょう。ホンダは、車やレースが好きで好きでたまらなかった故本田宗一郎氏が育てた会社です。かつてはF1レースに参入し、一時は連戦連勝の実績を残しました。そんなことから、ホンダには若者が好む独創的な車を作る会社というイメージがありました。しかし、NSXの生産停止で本格的なスポーツカーはなくなりました。若者の車離れもあり、ホンダのとんがったイメージも薄くなってきました。ここ数年、ホンダの人の口からは「ホンダらしさの復活」という言葉がよく出るようになっていました。
 会社の業績は、生活の足となる車の売れ行きが大きく左右します。一方でとんがったイメージがなくなると、生活の足となる車の売れ行きにも影響がでます。ホンダのとんがったブランドイメージが好きでとんがっていないホンダ車に乗っている人もたくさんいるのです。だから、ホンダは時々「ホンダらしさ」を守るための手を打たないといけないのです。

ブランド力とは何か

 ブランドイメージが確立されているかどうかは会社にとって大切です。ブランドは目に見えない価値です。製品の内容に差がなくても、ブランド品の方が高く売れるのはその価値が乗っかっているからです。会社に入るのならブランドが確立している会社の方がいいというのは、スタートラインが有利になっているからです。でも、せっかくのブランド力を落としてしまい、それあげる努力をしていない会社もあります。会社選びは、ブランド力があるかどうかとともに、あげる努力をしているかどうかも見た方がいいと思います。

※「就活割」で朝日新聞デジタルの会員になれば、すべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。大学、短大、専門学校など就職を控えた学生限定の特別コースで、卒業まで月額2000円です(通常月額3800円)。お申し込みはこちらから

アーカイブ

テーマ別

月別