ニュースのポイント
世界の自動車メーカーやIT企業の間で自動運転車の開発競争が激しくなってきました。まずは高速道路での自動運転をめざす日本勢に対し、欧米勢は一気にドライバーのいらない完全自動運転車を開発しようとしています。米国のフォード・モーターは5年後の2021年までに完全自動運転車を売り出すと発表しました。完全自動運転(無人運転)が実現すると、自動車の使われ方やあり方は根本的に変わります。世界の自動車メーカーの勢力図も激変するかもしれません。就活では10年、20年働く会社を選ぶのですから、完全自動運転車が実現した社会について考えておかなければなりません。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、経済面(11面)の「自動運転 高速道路で/日産 国産初の渋滞時低速制御/欧米勢は『完全自動』に意欲」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。(写真は、自動運転技術を積んだ「セレナ」をPRする俳優の山本耕史さん=中央=ら)
フォードは5年後に完全自動運転車めざす
日産自動車が高速道路での自動運転技術を積んだ車を売り出しました。国産車で初めて、車線をはみ出さずに自動で走れる仕組みも導入。高速道路でアクセルやブレーキを踏まず、ハンドルに手を添えるだけで運転できます。ただ、あくまでもドライバーの運転をサポートする技術という位置づけです。
イラストを見てください。自動運転には四つのレベルがあります。レベル1の自動ブレーキなどはすでに多くの車に装備されています。今回の日産の車はレベル2の段階で、アクセル、ブレーキ、ハンドルのうち複数をシステムが行います。レベル3は三つの操作をすべてシステムが担い、ドライバーはシステム側から要請があったときに対応。誰も運転しなくても移動できるのがレベル4です。内閣府はレベル4の完全な自動運転が実現するのは2020年代の後半と予想しています。
ところが、米フォードはレベル4の車を2021年までに供給すると発表したのです。開発をめざす車はハンドルやブレーキペダルがなく、「ライドシェア」と呼ばれる配車サービス事業を手がける企業に売る計画です。スウェーデンのボルボ・カーズも米配車大手ウーバーと完全自動運転車の開発で提携しました。
どんな社会?
5年後といえば目の前ですね。完全自動運転車が実現した社会を考えてみます。
無人の車を呼んだり、使った車を無人で帰らせたりできるようになるので、お年寄りや体の不自由な人が今よりも気軽に出かけられるようになります。運転手の人件費がかからないため、今のタクシーよりも安い料金で使えるでしょう。
不注意や居眠りなど人為的な事故はなくなるため交通事故は劇的に減るはずです。高速道のトンネルや坂道で発生する自然渋滞や事故渋滞も減ります。長距離トラックが何台も連なって走る「隊列走行」ができるようになります。輸送効率がよくなるため、省エネが進みそうです。昨日のこの欄で宅配便のトラック運転手が足りないという話を書きましたが、人手不足は解消。運送費が安くなるため、多くの商品の値段が下がる可能性もあります。
事故起きたら誰の責任?
完全自動運転の実現には高いハードルもあります。どんな状況でもシステム全体が正常に動く精度が求められます。道路情報などがインターネットを通じてやりとりされるためハッキング対策も欠かせません。技術だけでなく、事故が起きたときに、責任を負うのは車の利用者か、所有者か、それともメーカーか。法律やルールの整備が不可欠です。
レベル2までは自動車メーカーが優位ですが、レベル4を実現するのに必要な人工知能(AI)の分野では、米国のグーグルやアップルといったIT企業が先行しているともいわれます。トヨタ自動車は人工知能を研究する新会社を米シリコンバレーに設け、5年間で1000億円以上を投じる計画です。自動車メーカーだけでなくIT企業も交えた激しい競争が始まっています。
5年後かどうかはわかりませんが、完全自動運転が当たり前の社会はいずれ実現し、あらゆる業界、企業、社会を大きく変えるでしょう。こんな将来像を考えるのも業界・企業研究ですよ。
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