ニュースのポイント
世界の「報道の自由度ランキング」で日本は順位を下げて、180カ国・地域のなかで72位に沈みました。先進国ではイタリアに次いで低い順位です。憲法で「言論・表現の自由」が保障されているはずなのに、どうしてこんな順位なんでしょう? 施行から1年が過ぎた
特定秘密保護法の影響のほか、政治権力からの圧力やメディア側の自主規制や
忖度(そんたく)があるのではないかと指摘されています。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、総合面(7面)の「『報道の自由』72位/日本に海外から懸念も」です。
記事の内容は――国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)が20日に発表したランキングで、日本は前年より順位が11下がって72位だった。日本は2010年には11位だったが、年々順位を下げ、14年は59位、15年は61位だった。今年の報告書では、特定秘密保護法について「定義があいまいな『国家機密』が厳しい法律で守られている」とし、記者が処罰の対象になりかねないという恐れが「メディアをまひさせている」(アジア太平洋地区の担当者)と指摘した。その結果、調査報道に二の足を踏むことや、記事の一部削除や掲載・放送を見合わせる自主規制に「多くのメディアが陥っている」と報告書は断じ、「とりわけ(安倍晋三)首相に対して」自主規制が働いているとした。日本の報道をめぐってはほかにも、「表現の自由」に関する国連特別報告者の米大学教授が来日し「報道の独立性が重大な脅威に直面している」と指摘。米ワシントン・ポストが日本政府のメディアへの圧力に懸念を表明、英誌エコノミストは「報道番組から政権批判が消される」と題した記事で日本のニュース番組のキャスターが相次いで交代したことを紹介した。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
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国境なき記者団のホームページには、自由度別に色分けした世界地図が載っています。ランキング上位を占める北欧諸国やドイツは「良い状況」の白、ヨーロッパの他の国や北米は「どちらかと言えば良い」の黄色が目立ちます。日本、韓国(70位)、モンゴル(60位)のほか、南米は「問題あり」のオレンジが多く、ロシア、南アジア、東南アジアは「厳しい」の赤が多くを占めます。中国、北朝鮮のほか、中東にも「とても深刻」の黒で塗りつぶされた国があるなど、一目で世界の状況がわかります。
ランキングは、インターネットへのアクセスなども含めた「インフラ」や「メディア環境と自主規制」といった独自の指標に基づき、各国の記者や専門家へのアンケートも踏まえてつくられます。世界全体で、テロの脅威とナショナリズムの台頭、政治の強権化、政治的影響力を持つ富豪らによるメディアの買収などを背景に「報道の自由と独立性に対する影響が強まっている」とも指摘しています。
それにしても、日本の「72位」という順位には驚いた人が多いのではないでしょうか。だって、日本はお隣の北朝鮮や中国のような言論統制のある国とは異なり、憲法21条で言論・表現の自由が保障されています。報道も自由だと思っていますよね。それなのに、なぜこんなに順位が低いのか。ランキングの報告書が指摘するのが特定秘密保護法です。この法律は、安全保障に関する重要な情報を指定し、それを外部に漏らした公務員などに最高で懲役10年の罰則を科す法律で、2014年12月に施行されました。特定秘密を漏らすように「不当な方法」でそそのかした記者や市民も懲役5年以下の罰則を受けます。「国境なき記者団」はかねて、取材の方法しだいで記者も処罰されかねない同法に疑問を呈してきました。国連特別報告者のデービッド・ケイ氏も、同法について「原発や災害対応、安全保障など国民の関心が高い問題の政府情報が規制される可能性があり、内部告発者の保護体制も弱い」と懸念を示しています。
さらに、海外でも報じられている最近のテレビ報道と政治権力をめぐる話題を整理します。
【2014年12月】安倍首相は衆院選前に出演したTBSの番組で、アベノミクスの効果についての街頭インタビューを聞き、賛成の声が全然反映されていないとして「おかしいじゃないか」とクレームをつけた。自民党は選挙報道の公平中立を求める文書を各テレビ局に送った
【2015年4月】自民党の調査会が番組内容をめぐりNHKとテレビ朝日の幹部を事情聴取(同年4月21日今日の朝刊「テレ朝、NHKを自民なぜ聴取?放送法を考えよう」参照)
【2015年6月】自民党の勉強会で国会議員が「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番」と発言
【2016年2月】放送を所管する高市早苗総務相が国会答弁で「政治的公平」などを定めた放送法4条に違反した場合、放送局に電波停止を命じる可能性があるとの考えを示した(2月9日の今日の朝刊「総務相がテレビ電波停止に言及…『不偏不党』『公平』ってなんだ?」参照)
【2016年3月】NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子、テレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎、TBS「ニュース23」の岸井成格(しげただ)の3氏が番組を降板した。いずれも、時に権力に切り込む発言をするキャスターだったため、何らかの圧力やテレビ局側の忖度(そんたく)があったのではないかとの見方も
「報道の自由」のあり方はすべての人に関わる問題です。マスコミ志望ではない人も、今後の動向を注視してください。今日の総合面には、連載「教えて!ニュースキャスター」の第2回「ニュースゼロ」(日本テレビ)の村尾信尚(のぶたか)さんのインタビューが載っています。昨日は「ニュースウオッチ9」(NHK)の河野憲治さんでした。明日以降も各局の看板キャスターが続々登場しますよ。
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