ニュースのポイント
三菱自動車が燃費をよく見せようと、国土交通省に出すデータを不正に操作していたことが分かりました。自動車の燃費は、エコカー減税にもかかわり、車の売れ行きに大きく関係します。どうしてそんなことをしたのかという詳しい理由は分かっていませんが、担当者たちが意図的にやったことは会社が認めています。昨年、ドイツのフォルクスワーゲンが排ガス規制を逃れるために不正な操作をしていたことが明らかになり、日本のユーザーは驚きましたが、日本メーカーも同様な不正をしていたのです。企業が法令を順守するということは、それほど難しいことなのでしょうか。(朝日新聞社教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、1面の「燃費試験不備 別車種も/三菱自 国の基準に従わず」と9面(経済面)の「三菱自 再び窮地/経営陣 責任問題に/燃費試験データ不正/買い取れば多額費用」です。
記事の内容は――三菱自動車が軽自動車4車種の燃費試験データを不正に操作していた問題で、同社は2002年以降、4車種以外でも国が定める方法と異なるやり方で燃費試験データを測定していた。相川哲郎社長が開発部門の責任者を務めた時期と重なり、経営トップの責任問題への発展は避けられない状況だ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
三菱自動車の燃費試験データ不正事件のことは、大きなニュースになっているので知っている人も多いと思います。現時点で分かっている事件の骨格をかいつまんで書きます。
不正操作をしたことがはっきりしているのは、三菱自動車の軽自動車「eKワゴン」「eKスペース」と三菱自動車が製造して日産自動車が売っている「デイズ」「デイズルークス」の4車種です。燃費は国土交通省が試験をしてお墨付きを出し、カタログに書くことができます。その試験の前提となる数値に走行抵抗値があります。空気抵抗やタイヤによる抵抗を入力して、実際の走行テストで得た燃費性能の数字を調整します。三菱自動車は、実際より低い走行抵抗値を国交省に報告することによって、本来よりいい燃費のお墨付きを得ていました。
なぜばれたかというと、日産自動車に供給していたからです。日産自動車は独自に調べました。すると、三菱自動車の数字より7%くらい悪くなったそうです。それで、「おかしいのではないか」と三菱自動車に申し入れ、三菱自動車が社内で調べたところ不正をしていたことが分かったという経緯です。
みなさんは、どうしてこんな悪いことをするのか、と不思議に思うのではないでしょうか。自分なら絶対にしない、と思いますよね。私もやらないとは思いますが、やってしまった三菱自動車の担当者の気持ちを推察することはできます。ビジネス社会では、「少々危ない橋を渡っても成果を出せ」という圧力の存在を感じることがよくあるからです。
この場合も圧力は存在した可能性が高いと思います。三菱自動車はかつてリコール隠しなどの不正があって会社が傾きました。何とか立て直しが進みましたが、エンジンの開発競争では、大手や軽専業メーカーに後れをとりました。世はエコカー時代。燃費のいい車が選ばれる時代です。何としてもカタログに書く燃費を良くしたいという気持ちは、会社で広く共有されていたと思います。不正に関わったとされる開発本部もそうした気持ちの集積からくる圧力をきっと感じていたでしょう。
国交省の試験にも問題がありました。車を台車の上で実際に走らせてデータをとるのですが、走行抵抗値はメーカーが出した数字をそのまま使います。走行抵抗値によって燃費は変わるのに、メーカーの言い値を入力するのです。つまり、性善説でできている試験なのです。今回は日産自動車という第三者がいたから明るみに出ましたが、そうでなければ内部告発がない限りまず分からない仕組みです。となると、走行抵抗値を操作しようという誘惑にかられる人は少なくないでしょう。
三菱自動車の担当者たちは、燃費を良く見せたいという気持ちと試験制度の甘さの掛け算によって不正に手を染めてしまったのだと思います。私が想像するに、まじめで会社思いの人たちの哀しくて愚かな不正ではないでしょうか。ただ、燃費を良く見せたいという気持ちと試験制度の甘さは、自動車メーカーに共通しています。同じような不正をしているメーカーはない、とは言い切れないのでしょうか。
ビジネス社会は確かにきれいごとだけではすみません。でも、時代の流れは、「清濁併せのむ」社会から「濁水はなるべく飲まない」社会に向けて動いています。コンプライアンスの重視です。20~30年前だったら当たり前に通用したことが、今では大問題になることがあります。
会社に入れば、いろいろな人がいます。昔かたぎの先輩が「仕事は経過ではない結果だ」とか「刑務所の塀の上を歩け。ただし内側には落ちるな」とか「リスクをとるのが仕事だ」とか、いろいろと言うことがあります。でも、みなさんは「自分だったら絶対にしない」と思った(はずの)学生時代の気持ちを忘れずに、絶対に一線を超えないようにしましょう。
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