2015年04月21日

テレ朝、NHKを自民なぜ聴取? 放送法を考えよう

テーマ:メディア

ニュースのポイント

 テレビ朝日「報道ステーション」とNHK「クローズアップ現代」に問題があったとして、自民党が両局の幹部を呼んで事情聴取しました。自民党は「放送法に照らしてやっている」と説明していますが、政権政党が個別の番組について聴取するのは異例のこと。報道の萎縮につながる、報道の自由を侵すとの懸念の声も出ています。今日は、放送法について知りましょう。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、オピニオン面(16面)の社説「放送法/権力者の道具ではない」です。
 記事の内容は――テレ朝、NHKの番組内容に問題があったことは、両放送局とも認め、視聴者におわびしている。だからといって、その問題を理由に政権党が個別の番組に踏み込むのは、行き過ぎた政治介入というほかない。自民党は「放送法に照らしてやっている」と説明しているが、放送法は民主主義社会の基盤である国民の知る権利や表現の自由に放送を役立てることが主眼。政治権力が放送局を縛る道具としてあるのではない。自民党は、NHKと民放各社でつくる第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」についても批判的に言及した。放送法もBPOも、テレビを国民の自律的な言論や表現の場とするための仕組み。そこに政権政党の意向を働かせることは、多様で自由な表現を保障する民主主義の価値を損ねかねない。今の自民党の「圧力」は行き過ぎで、権力の乱用は厳に慎まねばならない。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 それぞれの番組で、どんな問題があったのでしょう。
【テレ朝】コメンテーターで元官僚の古賀茂明さんが菅義偉(すが・よしひで)官房長官を名指しし「官邸のみなさんにはものすごいバッシングを受けてきました」などと発言。菅氏は「事実無根」と反論し「放送法という法律があるので、まずテレビ局がどう対応されるか見守りたい」と述べた。テレ朝は早河洋会長が「あってはならない件だった」と記者会見で陳謝した。
【NHK】出家して戸籍名を変えることで債務記録の照会を困難にする「出家詐欺」の特集で、多重債務者の男性に出家を斡旋(あっせん)するブローカーとして登場した男性が「私はブローカーの経験はなく、NHKの記者にやらせの指示を受けた。犯罪者のような放送をされ憤りを感じる」として、NHKに訂正を求める申入書を提出。NHKが事実関係を調査している。

 この二つの番組について、自民党の情報通信戦略調査会が17日、両局の幹部を呼んで事情を聴きました。調査会後、川崎二郎・調査会長は「事実を曲げた放送がされるならば、(放送法などの)法律に基づいてやらせていただく」と語りました。

 さて、そこで放送法です。放送法は戦後間もない1950年に生まれました。一部原文を載せましたが、自民党は第4条の「政治的に公平」「報道は事実をまげない」といった項目を念頭に問題視しています。しかし、まず第1条には「放送が国民に効用をもたらすことを保障」「表現の自由を確保」「健全な民主主義の発達に資する」と目的をうたい、第3条では番組編集の自由を保障しているのです。

 テレビ局は誤った報道があれば自らの責任で訂正しなければなりません。ただ、報道の自由を守るためにも、権力側の圧力によるのではなく、あくまで放送局の自律した判断で行われるべきだというのが今日の社説の主張です。大石泰彦・青山学院大教授(メディア法)は朝日新聞の記事で「放送法は戦時中の教訓に学び、権力から放送を独立させるためにできた。放送局を締めつけるものではない」と述べ、第4条だけを取り上げてメディアを牽制(けんせい)する姿勢を批判しています。

 一方で、テレビ局は総務大臣に放送免許を与えられ、5年に1度更新を受ける立場でもあります。放送の電波は数が限られていて、誰もが発信できるわけではないため、許認可事業になっているのです。川崎氏は事情聴取の後「(政府には)テレビ局に対する停波(放送停止)の権限まである」とも言いました。政府が認めなければ放送できなくなるということです。この点は、同じ報道機関でも放送法のような縛りはない新聞との大きな違いです。マスコミ志望者はもちろん、それ以外のみなさんも、テレビのニュース番組を見るとき、ときにはこうした放送法などの背景についても考えてみてください。

※朝日新聞デジタルの無料会員は1日3本の記事全文を、有料会員になればすべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。ぜひ登録してください。

アーカイブ

テーマ別

月別