2016年04月05日

タクシー初乗り引き下げからモノの「売り方」を考えよう

テーマ:経済

ニュースのポイント

 20年以上前のことですが、沖縄の離島に初めて行ったとき、タクシー運賃の安さに驚いたのを覚えています。もちろん物価の上昇にともない、徐々に上がっていますがやはり今でも安いです。ちなみに沖縄県の場合、石垣島など離島地区では初乗り運賃は小型で430円(1.167km)、本島地区だと同じく小型で500円(1.75km)です。一方、東京の場合、2014年4月以降、初乗り運賃は730円(2km)。この初乗り運賃が2017年4月から「400円台」になるかもしれません。近距離でも気軽に乗れるのは利用者にとってはありがたいことですが、引き下げを申請したタクシー会社側にはどんな思惑があるのでしょうか。(副編集長・奥村 晶)

 今日取り上げるのは、1面トップの「タクシー初乗り400円台へ/東京都心/距離縮め来春にも/高齢者の利用期待」です。
 記事の内容は――2017年4月から、東京都心のタクシーで初乗りの距離が短くなり、運賃も安くなりそうだ。現在の「2km730円」が、1km強で400円台になる見通し。初乗りの引き下げは、国土交通省が業界に促していて、3月には2kmでいまと同じ730円になる設定(東京の場合)なら、値上げの場合より審査を簡単にすることを決定。大手の日本交通が5日に23区と武蔵野市、三鷹市を含む営業区域の運賃改定を国交省に申請する。最初の申請から3カ月以内に、地域の総車両台数の7割を超えるタクシー会社が同じような申請をし、国交省が認可すれば、地域全体に同じ料金体系が適用される。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 タクシーの初乗り運賃や初乗りの距離は、安さを売りにするタクシー会社もあり、会社によって違う場合もありますが、おおよその「相場」があります。国土交通省(沖縄の場合は内閣府)が定めた「上限運賃」があるからです。沖縄の初乗り運賃の安さは、2003年に唯一の軌道系の交通機関「ゆいレール」が開業したとはいえ、公共交通網が整備されているとは言い難いことや、物価水準などを反映しているといわれています。 
 さて、今回の引き下げですが、一見タクシー運賃が安くなるのかな、と思ってしまいそうですが、そうではありません。右の図を見てもらえばわかるように日本交通の申請の場合、2km730円は変わりません。ただ、1.059kmからその距離に見合った運賃が細かく設定された、ということです。値下げではないにしろ、記事にもあるように、高齢者や子どもを連れた利用者にとっては、買い物などの近距離でも気軽に乗りやすくなるかもしれませんね。

 そもそも今回の初乗り運賃の引き下げは、日本のタクシーの初乗り運賃が国際的に高いとされることから国交省が言い出したことでした。この夏、都内で一部のタクシーの初乗りを引き下げる実証実験を国交省主導で始める予定でしたが、業界側は消費税率アップなどの影響で、タクシー離れに拍車がかかるとの危機感があり、結果を待たずに引き下げに踏み切ろうとしているのです。

 運輸や観光業界に限らず、今回の初乗り運賃引き下げに似たような企業努力をしている業界はいろいろあります。たとえば、江崎グリコや味の素は途上国へ進出する際、お菓子や調味料を日本のものより容量を減らして値段を低めに設定し、消費者に手に取りやすくすることで知名度を勝ち取ってきました。携帯電話の大手各社も、データ通信の使用量が少ないスマートフォン利用者向けの低料金を設定することで、格安スマホに利用者が流れるのを食い止めようとしています。
 全体の利益を確保しながら、利用者にとって魅力的に「見える」料金体系を考えることはどんな業界でもつねに必要なことです。

 種明かしをしてしまうと、今回の日本交通の申請では、2km以降はこれまで0.28kmにつき90円ずつ加算だったのが、0.235kmにつき80円ずつの加算になり、1kmあたりの運賃としては321円から340円に実質は値上げになります。うまい料金設定ですね。
 東京で業界の足並みがそろうか、まだわかりませんが初乗り運賃の引き下げが全国に広がる可能性もあります。引き続き注目してください。

 自分の志望業界に関係なく見えるニュースからも得られることはいろいろあります。特に1面トップに載るような大きなニュースであればなおさらです。できるだけ自分に引きつけて考える癖をつけましょう。

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