◆ニュースのポイント
きょうから電力小売りが完全自由化されました。家庭用はこれまで、東京電力、関西電力などの既存の電力会社が独占していましたが、これからは様々な業態からの新規参入者との競争になります。さらに2020年4月には、電気をつくる発電事業と電気を送る送配電事業を分社化することが決まっています。そうなると、既存の電力会社の送配電部門は中立的な送配電会社となり、公平な競争が実現します。東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きるまで絶大な力を持っていた既存の電力会社は、間違いなく荒波にさらされます。就活では、ひとつの事故で業界や会社が根本的に変わることもあることを頭に入れておきましょう。
今日取り上げるのは、1面の「新電力と契約家庭まだ0.5%/自由化スタート」です。
記事の内容は――家庭でも電気を買う会社を選べる電力小売りの全面自由化が、4月1日から始まる。契約切り替えの申し込みは33万3700件(3月23日時点)で、対象となる6260万件の約0.5%。新たに参入する会社は電気料金が割安になると宣伝しているが、まだ「様子見」の家庭が多いようだ。経済産業省によると契約の切り替え申し込みは、関東と近畿で全体の約9割を占め、大都市圏に集中している。家庭向けなどの市場規模は全国で約8兆円、うち約3兆円を関東が占める。ガスや石油元売りなど様々な業種の会社が参入するものの、まずは契約を増やしやすい大都市圏を重視していることが背景にある。同省によると、3月末までに266事業者が企業向けも含めた認可を受けた。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
◆就活アドバイス
新電力に切り替えた家庭が0.5%にすぎないと、既存の電力会社は喜んでいるでしょうか。そんなことはないと思います。まだよく分からないので様子見をしている家庭が多いのが実情で、徐々に切り替える家庭が増えていくと思います。仮に切り替える家庭がそんなに多くなかったとしても、既存の電力会社はお客さんを囲い込むために値引きなど、利用者にとってより魅力的なサービスを提供しなければいけないわけで、これまでのように安閑としてはいられないはずです。
さらにもう少し先を見ると、2020年には発送電の分離が実現します。それまでは、自由化と言っても新電力はライバルである既存の電力会社に使用料を払って送配電網を使わせてもらうことになります。既存の電力会社が新電力に不公平な扱いをすることもありえます。これが2020年に独立した送配電会社になれば、既存の電力会社だけを有利に扱うことは原則できなくなりますので、競争条件はどこも同じになります。そうなると、既存の電力会社はますます経営努力が必要になるはずです。
実は、電力小売りの自由化や発送電分離は、福島第一原発事故によって実現したものです。事故以前から構想はありましたが、政治や行政に絶大な力を持っていた既存の電力会社が抵抗して構想のままになっていました。それが、原発事故によって電力会社の地域独占による閉鎖性や強すぎる力への批判が強まり、一気に実現しました。東京電力が起こした事故によって、電力業界全体が新時代を迎えることになったのです。
それ以前の電力会社は、「殿様」の形容がぴったりする業界でした。全国に10ある大手電力会社は、それぞれの営業エリアが決まっていて、家庭用は独占でした。電気料金は、コストに利益を上乗せして決まる仕組みで、コスト削減努力もそれほど必要ありませんでした。こうしたことから、業績はきわめて安定していて、「老後資金で電力株を買う」というのは日本の常識でした。
地域の経済団体のトップはたいてい電力会社のトップが務めていました。政治家には、資金、票、人手を出し、官僚には天下り先を提供し、マスコミには広告費を出していました。そうして、政財官界マスコミに強い影響力を持っていたのです。もちろん、就職先としても人気業界でした。
ひとつの事故や事件で、それまで力を持っていた業界や会社が存立の危機に陥るということは、時々あります。2010年、日本航空(JAL)が会社更生法の適用を申請し、倒産しました。この原因には様々な要素がありますが、私は500人以上の乗客、乗員が亡くなった1985年の御巣鷹の尾根への墜落事故が遠因だと思っています。事故までは、JALが日本を代表する「フラッグキャリア」として圧倒的な力を誇っていましたが、以後、全日空(ANA)に追い詰められていきます。その行きつく先が倒産だったと言えると思います。2000年代前半にあった雪印グループの集団食中毒や食肉偽装は大きな社会問題になり、巨大な食品グループだった雪印グループは解体して再編を迫られることになりました。最近では、エアバッグのタカタが欠陥問題で存立の危機に陥っています。
こうした危機を招く問題は、あらかじめ想定しようと思えば想定することが可能なものです。それをリスクと言います。原子力発電所を抱える電力業界や飛行機を運航する航空業界は、いったん事故が起これば大変な損害を負わなければなりません。ただ、起きる可能性の見方によって、リスクは変わります。「可能性はある」と見ればリスクの大きな業界ですし、「可能性はほぼない」と見ればリスクは大きくない業界と言うこともできます。電力業界やJALはリスクの大きさを見誤って、対策や点検を怠り失敗した例と言えるでしょう。志望する業界が持つリスクは何か、そしてそのリスクは大きいのか小さいのか、自分で調べて自分の頭で考えてみましょう。就職するにしてもしないにしても納得性が高まると思います。
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