ニュースのポイント
今日取り上げるのは、1面の「鴻海、シャープ買収決議」です。総合面(3面)の「強気の鴻海 迫った譲歩」、経済面(7面)の「液晶王国 急成長故の凋落」も関連記事です。
記事の内容は――鴻海は30日、シャープに3888億円を出資して買収することを決議し発表した。鴻海幹部は会見で「シャープを再び世界の電子産業のリーダーとし、世界的企業としての栄光を取り戻す」との声明を読み上げた。シャープの6月の株主総会で買収が承認されれば、鴻海は10月までに出資して議決権の66%を握る。
シャープは1912年以来、創業者・早川徳次氏の「他社にまねされる商品をつくれ」という精神を受け継ぎ、独創的な製品を生み出してきました。最初のヒット商品は、社名の由来にもなったシャープペンシル。戦前は初の国産鉱石ラジオ生産、戦後も国産第1号テレビ発売、国内初の業務用電子レンジ量産、卓上電卓機、液晶表示付きの電卓発売など、日本初、世界初を連発してきました。電子レンジが温め終わると「チン!」となるのも、携帯電話にカメラをつけたのもシャープが最初といわれています。
液晶ディスプレーで強みを発揮し、世界初の壁掛けテレビなどを発売。2000年代には液晶テレビ「アクオス」が大ヒットし、世界的な大企業に成長しました。2004年に生産を始めた三重県の亀山工場でつくった液晶テレビは「世界の亀山モデル」として注目され、2007年度には売上高と純利益が過去最高を記録しました。ところが、工場をつくるのに銀行から巨額の借金をしたことが後に響いてきます。
液晶テレビやスマホの分野では韓国のサムスン電子やLG電子が急成長し、シャープを上回る規模の工場で生産するなど安売り競争が激しくなりました。日本の大手メーカーは価格競争に敗れ、シェアを急激に落とします。ソニーやパナソニックなど他の大手は、テレビが売れなくなって赤字が出ても、それまでの蓄えを切り崩してなんとか耐えましたが、シャープは過剰な投資をしたことでお金に余裕がなくなり、身動きがとれなくなりました。
一方の鴻海は、世界中の企業の依頼を受けて様々な製品をつくる「電子機器の受託製造サービス(EMS=electronics manufacturing service)」で世界最大手の巨大メーカーです。米アップルのiPhoneのほか、ソフトバンクの人型ロボット「ペッパー」や、ソニーの家庭用ゲーム機「プレイステーション4」もつくっています。売上高は15兆円超と、ソニーやパナソニックよりずっと多いのですが、自社のブランドを持たず他社の「下請け会社」のため、一般にはあまり知られていませんでした。
「シャープ」のブランドは、今でもアジアを中心に広く知られています。鴻海はこのブランドを手に入れてビジネスを広げようとしているわけです。もちろん、シャープの技術力も魅力です。まずは、色鮮やかでこれからスマホ画面の主流になるといわれる「有機ELパネル」で、シャープの技術を生かして開発を急ぐ方針です。
2月5日の「シャープ、台湾の鴻海傘下に!? M&Aに国境なし(一色清の今日の朝刊ウィークエンド)」でも書いたように、国境を越えた企業買収は今や当たり前の時代。技術力のあるシャープが海外企業のもとで復活できるのか、注目です。
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2025/04/02 更新
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