ニュースのポイント
トヨタ自動車が、スズキとの業務提携とダイハツの完全子会社化を検討しています。世界トップメーカーは、なぜ国内の小型車メーカー2社と関係強化しようとしているのでしょう。キーワードは「新興国」と「先進技術」です。自動車業界の地図に大きな影響を与えそうな動きです。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面の「トヨタ、新興国へ協業模索/スズキ提携・ダイハツ完全子会社 検討」です。総合面(3面)の「トヨタ、苦手分野解消へ一手/新興国で苦戦 スズキと提携検討」は関連記事。経済面(9面)には「自動車8社 世界生産最高/昨年0.6%増 国内は減」が載っています。
記事の内容は――トヨタは、新興国市場開拓に向けてスズキと幅広い分野での協業を模索するほか、傘下のダイハツ工業を完全子会社にする方向で調整している。実現すれば、自動車産業の勢力図にも影響を与えそうだ。関係者によると、トヨタはスズキとの間で、エコカーや自動運転といった新技術だけでなく様々な分野で提携を検討中。小型車の販売・開発や部品の共通化も対象とみられる。ダイハツについては、出資比率を今の約51%から100%に引き上げる方向だ。トヨタはグループ世界販売台数で4年連続の首位に立ったが、新興国シェアは低迷。小型車を得意とするスズキやダイハツとの関係強化をてこに、インドなど新興国市場開拓を進める構えだ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
3面の記事には、トヨタ、スズキの両社が「交渉の事実はない」というコメントを出したと書いてあります。それなのにどうしてこのニュースが報じられるかというと、トヨタの関係者が非公式のオフレコ取材に対して、検討している事実を認めたためです。まだ正式な交渉に入る前の段階のようですから、今後本当に提携が実現するかどうかはわかりませんが、自動車業界の今を知り、これからを考えるには格好のニュースです。業界・企業研究に活用してください。
トヨタの2015年のグループ販売実績は1015万1000台で、前年より0.8%減りました。ただ、首位争いをしてきたドイツのフォルクスワーゲン(VW)が排ガス不正問題の影響などで2.0%減の993万600台にとどまったため、4年連続の世界一が確定。スズキは303万4000台で過去最高を更新しました。好調な2社が提携を検討している事情をまとめます。
【トヨタの事情】中国やブラジルなど主要な新興国のシェアは5%前後と低迷しVWや米国のゼネラル・モーターズ(GM)に差をつけられている。とりわけ成長市場のインドでのシェアは4%(2014年)と苦戦。他社にさきがけて1983年にインドに進出したスズキは36%という圧倒的なシェアをもっており、組めば販売拡大が見込める。ダイハツを完全子会社にするのはグループ内で開発や生産などの役割分担をさらに進める狙い。ダイハツの低コストの生産技術を取り入れて、低価格車がカギを握る新興国でのシェア拡大を狙う。
【スズキの事情】2010年、それまで提携していた米ゼネラル・モーターズ(GM)に代わり、独フォルクスワーゲン(VW)と資本提携したが、うまくいかず2015年に解消したばかり。環境・安全技術や自動運転など巨額の費用がかかる先進技術をどう開発するかが課題。豊富な資金をもち、燃料電池車、自動運転技術などでリードするトヨタから技術供与を受けられればメリットは大きい。鈴木俊宏社長は21日の記者会見で「単独でできないなら連携も必要だ」と語った。
上の図を見てください。トヨタと富士重工業、マツダとの提携も巨額の研究開発費に対応する意味合いがあります。スズキとの提携が実現すると、国内の乗用車メーカー8社のうち日産自動車、ホンダ、三菱自動車以外は、すべてトヨタとつながる構図になります。トヨタはスズキとの資本提携も考えていますが、ダイハツとスズキを合わせると国内の軽自動車市場のシェアの6割を占め、独占禁止法に触れる恐れもあるため慎重に検討しているようです。自動車業界ではほかにも、ホンダがGMと自動運転に必要な人工知能(AI)分野で協業を検討中です。両社は燃料電池車の研究開発でも提携関係にあります。
「新興国」マーケットと、環境・安全・自動運転のための「先進技術」をめぐり、日本だけでなく世界の自動車メーカーの合従連衡(がっしょうれんこう)の動きが続きそうです。
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