ニュースのポイント
東芝が国内外のグループ従業員1万人を削減する大リストラに踏み切ります。2016年3月期は過去最悪の5500億円の赤字となる見通しで、長年の不正会計のツケが一気に出た形です。今回のリストラからは、日本の電機業界の実情や構造変化が見えてきます。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、経済面(6面)の「東芝、国内外1万人削減/赤字 最悪の5500億円/16年3月期予想/家電縮小、再建急ぐ/TV販売 2年で9分の1」です。
記事の内容は――不正会計にゆれる東芝は21日、2016年3月期の業績予想が
営業損失は3400億円、
純損失は5500億円になると発表した。赤字幅は
リーマン・ショック後の09年3月期を上回り、過去最悪になる。国内外でグループ従業員の約5%にあたる約1万人を削減し、赤字の大きい家電事業を縮小して再建を急ぐ。人員削減は国内が5800人、海外で4800人。一番切り込むのはテレビ事業で、販売は国内向けに注力し、海外は自社製品の販売をやめる。2016年度の販売台数は60万台を見込み、14年度(535万台)の9分の1に減らす。パソコン事業は16年4月をめどに分社、企業向けの販売を中核にし個人向けは国内を軸にする。富士通、ソニーから分社したVAIOとパソコン事業統合に向けた交渉を進め、
白物家電事業もシャープなど他社との統合を検討している。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
東芝の不正会計問題については、これまでにもこの欄で「東芝不正 これからの対応策に注目」(7月21日)、「東芝不正会計で考える『コーポレートガバナンス』って?」(7月22日)、「日立と東芝の明暗なぜ?ライバルを比べよう」(8月19日)を書きました。その後、不正会計による利益の水増しは7年間にわたって2000億円超あったことがわかり、事業の見直しを進めていました。
国内で人員削減する5800人のうち、ソニーに移ることが決まっている人などを除き、約4200人が早期退職の対象になるようです。早期退職とは、退職金を通常よりも多く受け取ることなどを条件に定年前に退職することです。会社が希望者を募ったり、特定の社員に退職を働きかけたりします。この「退職勧奨」は俗に「肩たたき」とも呼ばれます。強制ではなく「クビ」とは違うのですが、実際には退職を強く迫るケースも多いと言われています。いずれにせよ、現役の社員にとってとても厳しい状況に違いありません。
ただ人員整理で社員数を減らす苦境にあっても、東芝が新卒採用をしないことはないと思います。2017年卒の新卒採用数はまだわかりませんが、東芝ほどの大企業では毎年新入社員を採らないと、会社の成長は望めないし、社員の年代構成のバランスが崩れるからです。
今日のニュースから、日本の電機業界の現状と変化を整理します。東芝のテレビといえば「レグザ」が有名ですし、世界で初めてノートパソコンを開発したのも東芝ですが、ここがリストラの対象になります。
テレビ、パソコンなどのデジタル家電は、液晶パネルなどの基幹部品を組み合わせれば同じような製品をつくることができます。このため、2000年代になって日本メーカーは韓国や中国、台湾など新興国メーカーとの価格競争に敗れ、世界でのシェアを落としました。2008年のリーマン・ショックが追い打ちをかけ、日立製作所、東芝、ソニー、パナソニック、シャープが相次いで巨額の赤字を記録。各社ともリストラや事業の見直しを進めました。日立はテレビの自社生産から撤退し、社会インフラや情報システムなど安定して利益を稼げる分野に注力。パナソニックはプラズマパネル生産から撤退し、自動車向け電子部品などに軸足を移し、いずれも「V字回復」を果たしました。ソニーもパソコン事業を売却し、テレビ事業などを子会社にして回復をはかっています(2015年2月26日「ソニー、子会社化で『復活』へ?」参照)。
一方で東芝は、テレビやパソコン事業の縮小がこれまで中途半端にとどまる一方、不正会計を続けてごまかしてきたことがたたり、今回の大リストラに至ったわけです。シャープも液晶パネルへの投資が過大だったため、まだ苦境から抜け出せていません。
日本の電機業界のビジネスは、消費者向けの「BtoC」から企業向けの「BtoB」へ、普及品から高級品へと様変わりしています。日々のニュースから、こうした大きな流れを理解することが大切です。
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