2015年11月20日

AI時代に考える「その仕事、本当に人間にしかできない?」(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:科学技術

ニュースのポイント

 新聞に人工知能(AI)の話題が増えています。これまでも何度か人工知能ブームがありましたが、今度はいよいよ実用化の段階に入ったようです。ただ、人工知能が実用化されると、人から職業を奪うことにもなります。もちろん、人工知能に関する新しい職業もできるでしょうから、奪うだけとはいえませんが、数としては奪われる方が多くなりそうな気がします。人工知能が実用化される時代でも生き残る職業は、ひとことで言えば「人間でなければできない仕事」です。自分の将来を考えるときには、自分がやろうとしている仕事は「人間でなければできない仕事」かどうか、を考える必要がある時代になりつつあります。(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)

 今日取り上げるのは、オピニオン面(16面)の社説余滴「1億+ロボット総活躍」(原真人記者)です。
 記事の内容は――2年前、将棋の現役プロ棋士が初めてコンピューターに敗れた時、一ファンとして棋士の価値が台無しになるようでショックだった。先週末、国立情報学研究所などが東大入試合格をめざして開発中の人工知能「東ロボくん」の模試結果が発表された際にも似た感覚を抱いた。全大学の6割で合格可能性80%以上となり、有名私大の合格圏も視野に入ったというのだ。工場労働者の仕事は長年にわたって次第に機械に奪われてきた。人工知能が活躍する社会では、多くのホワイトカラーの仕事が奪われる可能性がある。弁護士、会計士、薬剤師、公務員……。全部でないにせよ仕事の一部が機械に代替されていくだろう。もちろん望ましい展開も考えられる。人手不足で十分サービスを提供できない分野では、事態の改善に生かせるからだ。こうなると、「労働力が減るから移民が必要」という短絡的な議論も見直した方がいい。むしろ求められるのは「人間に残される仕事は?」「そのために必要な教育は?」という問題の追究だ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 新聞記事を書く人工知能がすでにできているという記事を読んだときは、ドキッとしました。私たちの仕事もこれまでか、と思ったのです。でも、よく読んでみると、企業の決算発表だとかスポーツの結果だとかを伝える、いわゆる定型の記事は人工知能が書くことができるようになったということでした。もっと複雑な構成の記事や、視点が大事な記事、あるいは人の心理に触れる記事などは、書けません。まして、ほれぼれするような美しい文章や人を泣かせるような感動的な文章は、望むべくもありません。とりあえず安心しましたが、それはつかの間でした。どうやら人工知能は自分の力で学習するのだそうです。つまり、どんどん賢くなっていくのです。いつの時か、同じデータを持っていても、私よりずっといい記事を書くようになる可能性は十分あります。

 ある会合で日本の人工知能研究の第一人者、山川宏ドワンゴ人工知能研究所長の話を聞く機会がありました。人工知能が職業を奪う大変化について触れ、「この先10年の職業」を大予測してくれました。まず、「今後とも残っていくと思われる職業」は①高度な創造性を要する仕事②複雑なコミュニケーションを要する仕事③手先の器用さを要する仕事、の3つです。逆に言えば、この3つにあてはまらない仕事は機械(人工知能)がとってかわるわけです。新聞記者は①と②にあてはまるから大丈夫だと思いますが、高度な創造性を発揮しているか、複雑なコミュニケーションをうまくとっているか、と思い返すと不安になります。

 山川所長は、なくなる職業がある一方、新しく増える職業もあると言います。「今後増えてくる職業」は、①AIに与えるデータを生成する仕事②AIと人間の分担をコーディネートする仕事③AIの活用能力の高い人材を育成する教育産業④AIの動作や意思決定過程を説明する解説者、の4つです。つまり、人工知能周辺で新しい仕事ができてくるというわけです。

 こう見てくると、人工知能が実用化される時代は、人間が生きていくのにずいぶんハードルが高くなる時代のような気がします。そのハードルを越えた人だけが職業人になれるというのでは、とてもしんどい時代に映ります。山川所長も「富が偏在する時代になる可能性がありますので、分配がとても大事になります」といいます。とはいっても、労働は人の尊厳とも関わることですので、分配さえあれば満足するとは思えません。

 ちょっと暗い気持ちになったのですが、山川所長は明るい話を付け加えました。「人工知能によって人の幸福が測れそうになっています」というのです。人の表情や血流、筋肉の緊張度、脳波などさまざまな人体データを常時測ることなどで、これまで主観的と思われた幸福度を客観的に数値化できるようになるのだそうです。そうなれば、今は社会の目標がGDP(国内総生産)だったりしますが、それが幸福度に変わるわけです。「こういうときにはこうすれば幸福になれる」という答えがあれば、ひとりひとりの幸福追求も、社会全体の幸福追求も今よりたやすくなりそうです。その答えがもしも「人工知能がやっている仕事を人間が代わってやること」だったりすると……?社会はまた人工知能のない時代に戻るのかもしれませんね。いずれにしても難しい社会がすぐそこまでやってきています。

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