ニュースのポイント
保険、コンビニ、飲料、さまざまな業界で、買収や合併や統合によりシェアや利益率を拡大し、生き残りをはかっているというニュースが相次いでいます。その一方で、政府が「企業合併・買収」を規制しようとしている業界があります。それが大手の通信会社です。企業が自社の利益を確保したり、拡大したりするために経済活動をするのは自由なはずです。どうして、政府は通信業界の動向に目を光らせているのでしょうか。(副編集長・奥村 晶)
今日取り上げるのは、6面(経済面)の短信「通信大手の合併、規制へ」です。
記事の内容は――総務省は、大手の通信会社同士の企業合併・買収(M&A)を規制する方針だ。対象は14社で、合併や出資、事業買収後に、総務省の審査を義務づけ、経営体制などに不備があれば、改善を求めたり事業を停止したりする。携帯市場が大手3社で占められ、競争が起きにくくなった結果、料金が高止まりしていると考えているためだ。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
みなさんは月にどのくらいの通信料がかかっていますか? 我が家の場合、固定電話、パソコン用のネット接続、娘と私の携帯と、昨年新たに購入したタブレットの通信料で、月々2万円近く出費しています。安くなってくれれば素直にうれしいと思います。
タイトルの「どうして?」の答えはもう記事中に出ていますが、なぜ、政府は携帯電話料金を引き下げようとしているのでしょうか? これまでの経緯を振り返ってみます。
きっかけは、安倍晋三首相が今年9月、経済財政諮問会議で「携帯料金などの家計負担の軽減は大きな課題」と、高市早苗総務相に対応を指示したことです。背景には安保関連法案や派遣法改正案など、反対する国民が少なくない法案を相次いで成立させ、政権の支持率が低下したことがありました。「国民ウケ」する施策を主導することで人気を盛り返そうというねらいがあったとの見方もあります。総務省は早速、安倍首相の意向を受け、値下げ策を検討するための有識者会議を招集、年内に結論として提言をまとめる方向です。
料金引き下げの具体策としては、「料金プランの多様化」(データ通信の利用が少ない人向けの低料金コースを設定)、「端末代の透明化」(端末の値引き販売の縮小と引き換えに通信料を値下げ)、「格安スマホの普及」(政府による後押し)などが挙がっています。
現在、携帯市場はNTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクの3社でほとんどの利用者を分け合っているわけですが、そもそも政府(総務省)には、携帯料金を決める権限はありませんし、大手3社にとって、提案されることの多くは「余計なお世話」という話です。
KDDIの田中孝司社長は新商品発売イベントで「政府の声も真摯(しんし)に聴くが、携帯電話の料金は認可制ではないので、競争下で自分たちで頭を使って判断していく」と強調していますし、NTTドコモの加藤薫社長も(携帯電話料金が高すぎる、という指摘に対し)「スマートフォンでできることが増えた」と話し、低料金プランなどに慎重な姿勢を見せています。要するに、有識者会議でどんな結論が出ても、携帯会社には従う義務はないのです。
携帯料金が下がらない状況を変えるもう一つの案が、今回のニュース、M&A規制です。政府は携帯3社がこれ以上「強大」にならないようにして、競争がしやすい環境をつくろうとしているのです。今日から総務省のウェブサイトなどで、この通信大手のM&A規制に関する政令、省令案についての意見を募っています。来年5月からの施行を予定しています。
みなさんはどう思われますか。携帯電話会社、利用者、施政者、どの立場で考えるかによって見方が大きく違ってきそうですね。こうした白黒はっきりつけられないテーマこそ、面接やグループディスカッションの「準備体操」にピッタリ。経済面の小さなニュースには、そういった「お題」がいろいろあります。自分の志望業界にかかわるものはもちろん、白黒つけづらそうな話だな、とひっかかる記事があったら、ぜひ過去のニュースを検索するなどして、自分なりの考えを言えるようにしておきましょう。
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