ニュースのポイント
日本生命保険が三井生命保険を買収します。国内の生保同士の大型再編は久しぶりで、日生は、保険料収入で第一生命保険に奪われた首位の座に返り咲きます。背景にはどんな事情があるのでしょうか。業界・企業研究に格好のニュースです。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、総合面(2面)の「時時刻刻・生保 細る国内市場/日生、三井生命買収へ/会社訪問の営業に逆風 乗り合い代理店台頭」です。
記事の内容は――日生が今年度中にも三井生命を買収する。少子化や生活スタイルの多様化など国内市場の大きな変化に対応するものだが、11月にも株式上場を予定するかんぽ生命保険も勢力拡大を図っており、生保の生き残り競争は激しさを増す。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
私が朝日新聞社に入社したころは、会社のオフィスなどに営業職員の女性がよく出入りしていました。この営業職員を通じて保険に加入していた人も多かったと思います。その後セキュリティー意識が高まって会社への出入りこそなくなりましたが、日生は営業職員中心の伝統的な販売手法に強く、業界首位を長年守ってきました。ところが、保険の種類や販売方法が多様化する中、2014年度の売上高にあたる保険料等収入で第一生命保険に逆転され、業界首位の座を奪われました。そこで、「国内ナンバーワン」にこだわる日生が大型買収に踏み切ったのです。
今回の買収の背景には、業界の事情がいくつも見えてきます。今日の記事などから整理します。
【少子高齢化と社会の変化】新社会人の数が減っているうえ、晩婚化や共働き増で若者の新規加入が減少。高齢者は増えたが、契約金額が高く利益率がよい死亡保険より、病気やけがの保険の売り上げが増えた。個人が入る死亡保険の契約金額の総額は2014年度で約857兆4000億円。ピークの1996年度から減り続けている。
【販売方法の多様化】複数の保険会社の商品を並べて売る保険ショップ「乗り合い代理店」が増え、インターネットで簡単に安く入れる保険も台頭し若者を中心に受けている。生保の外貨建て貯蓄性商品などを銀行窓口でも売れるようになり、こちらは中高年に人気だ。第一生命は、銀行窓販部門を別会社にして商品開発も強化。これがトップ逆転の原動力になったともいわれる。
【グローバル化】国内市場の競争が厳しくなる中、生保各社は海外展開を競う。図にあるように、今年は世界最大の保険市場であるアメリカの保険会社の買収合戦となった。日生は今春、今後10年間で1兆5000億円の企業の合併・買収(M&A)を行う方針を表明しており、海外企業の買収も検討中。
【かんぽの脅威】日本郵政公社が民営・分社化されて誕生した「かんぽ生命保険」の株式上場が11月にも予定されている。全国2万超の郵便局による強い販売力で、保険料等収入は第一生命や日生を上回る。かつては民間企業の営業を圧迫しないよう新商品は出しづらかったが、株式を売り出す政府は上場を前に成長力を占めそうと新商品を認めており、すでに学資保険がヒット。養老保険の新商品も売り出し、医療保険も検討するとみられる。
国内の生保会社は大小合わせて40社以上あり、今回の買収を機に業界再編が加速するかもしれません。ただし、日生、住友生命、明治安田生命、富国生命、朝日生命の5社は、「株式会社」ではなく「
相互会社」という特殊な法人です。保険会社だけに認められている形態で、株式市場で買収することはできません。三井生命は2004年、第一生命は2010年に、相互会社から株式会社に移行しました。双方のメリット、デメリットを含め、こうした業界の事情も調べておきましょう。
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