2015年08月28日

最低賃金とどれだけ違う? 初任給を時給換算してみよう(一色清の「今日の朝刊ウィークエンド」)

テーマ:経済

ニュースのポイント

 毎夏、最低賃金が都道府県ごとに決められます。中小企業や非正規労働者の賃金の目安になるものですから、とても大切です。でも、「この県はいくら」という金額の根拠はよく分かりません。国の審議会が目安を決め、地方の審議会が金額を決める仕組みですが、ほとんどの審議会が非公開のためです。最近、大企業と中小企業との賃金格差が拡大しているといわれています。
 世間は春闘ばかり注目しますが、最低賃金の審議は春闘以上に大事だともいえます。最低賃金は、会社の賃金水準と無関係ではありません。志望する会社の初任給が最低賃金を上回っているのは当然ですが、どれくらい上回っているかを調べて、その地域での待遇のよしあしの目安にしてはどうでしょうか。

 今日取り上げるのは、生活面(33面)の「最低賃金なぜこの額?/審議非公開 見えない根拠」です。
 記事の内容は――今年の各地域の最低賃金(時給)改定額が先日、出そろった。全国平均は798円(前年比18円増)で、4年続けて大きく増えた。先立って国の委員会が7月に示した引き上げ「目安額」を参考に、各都道府県が決めた。ただ、国の審議は非公開で、目安額の根拠がわかりにくい。
 ある労働局の担当者は、非公開の理由を「スムーズに結論を出すため」と説明する。「金額審議は労使の譲歩の場。属する団体の手前、妥協する姿を見せられず、公開したらいつまでも結論が出ない」。非公開は国も同じだ。引き上げ目安を決める中央最低賃金審議会(中賃)の委員会は「原則公開」のルールがありながら、「率直な意見交換に支障がある」などとして、会議の冒頭以外は非公開だった。目安額の根拠は、物価上昇など「諸般の事情を総合的に勘案した」。だが都市部の19円より3円低い16円の目安額を示された鳥取の専門部会では、経営側が「どこで16円が出てきたのか、さっぱりわからない」とのべ、「地方の声がもう少し届くように中賃にお願いしたい」と続けた。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 みなさんが志望する会社の給与額は最低賃金を上回っているはずです。日本の最低賃金はかなり低く設定されていて、少し前まで地域によっては生活保護の水準を下回っていました。ただ、それでは何のために働くのか分からないということで、生活保護の水準を上回るように引き上げられてきましたが、まだまだ低すぎるといえます。
 
 例えば、諸外国と比べてみましょう。日本の全国平均が時給798円なのに対し、アメリカは約900円、イギリスは約1250円、フランスは約1310円、ドイツは約1160円です。上昇の流れは日本以上に強く、アメリカのニューヨーク州では外食チェーンの従業員の最低賃金を1850円に段階的に引き上げることにしています。各国とも、景気が比較的いいことに加え、収入格差を何とか縮めたいという意図から最低賃金の引き上げに力を入れているのです。
 日本は、2010年に平均1000円にするという目標を決めました。しかし、まだまだ遠い目標に過ぎません。
 最低賃金は、会社の給料とも無関係ではありません。みなさんが志望する会社の初任給が18万円で、月に180時間働くとしましょう。時給はちょうど1000円です。つまり、最低賃金1000円という目標は、今のちょっと安めの初任給レベルと言えます。今年決まった最低賃金は平均798円ですので、初任給のほうがまだだいぶん高いのですが、会社としては最低賃金がどんどん上がっていくことになれば、それを意識せざるを得ません。当然、非正規社員の時給は最低賃金を上回っていなければならず、経営者が正社員の賃金を上げる圧力にもなります。
 収入格差が比較的小さいと言われた日本の社会も、最近は格差が拡大していると言われています。格差の大きな社会は階層が分かれる社会につながり、不安定で、おそらくあまり幸福でない社会でしょう。そうしないためにするべきことはいろいろありますが、重要なことのひとつが最低賃金の引き上げだと思います。経営者の中でも、社会全体を見ている人は、最低賃金の引き上げの重要性を主張していますが、目先の経営に精いっぱいの人はこれ以上の引き上げに渋い顔をします。就職先としては、社会全体を見ている経営者の会社の方がいいのはいうまでもありません。

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