2015年08月04日

三菱マテリアルの対応で考える「歴史的責任」

テーマ:社会

ニュースのポイント

 戦時中に中国人が強制連行されて、日本の炭鉱などで過酷な労働を強いられました。当時の労働者らは日本の企業に損害賠償を求めていましたが、三菱マテリアルは「戦後70年近くが経つ中、終局的な解決を図りたい」として和解交渉に応じる姿勢を示しました。戦争をめぐっては、70年以上前の出来事なのにいまだに解決していない問題がたくさんあります。その一つが動き始めました。「歴史的な責任」の問題を考えます。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、1面の「三菱マテリアル 和解姿勢/中国人強制労働/昨年『終局的解決を』」です。総合面(3面)には関連記事「救済促す判決 背景に/三菱マテ和解姿勢/元労働者側は連帯」が載っています。
 記事の内容は――戦時中に強制連行され過酷な労働を強いられたとして中国人元労働者らが日本企業に損害賠償を求めている問題で、三菱マテリアル(旧三菱鉱業)が2014年1月、和解交渉に応じる姿勢を元労働者と遺族側に示していた。同社が戦中に使っていた中国人労働者は3700人を超えるとされ、同様の問題を抱える企業の中でも大規模だが、戦後70年の節目を迎えることも念頭に歴史問題の精算を目指している。日中間の戦争賠償問題は「解決済み」との政府の立場を超え、独自に和解すればほかの企業に与える影響は大きい。関係者によると、同社は昨年末までに使用者としての「歴史的責任」を認めて謝罪し、元労働者1人当たり10万元(約200万円)の支払いを柱とした和解案を提示。元労働者側は1団体を除く5団体は基本的に受け入れる姿勢だ。日本の訴訟で強制連行の事実が認定されていたことを踏まえ、十数人まで減った元労働者本人が生きているうちに決着をつけ、海外ビジネスへの影響を食いとめるべきだとの声が社内でも強まっていた模様だ。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

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 中国人強制連行については、元労働者の支援団体が被害者は約3万9000人にのぼり、日本企業35社が関与したと主張しています。戦争賠償の請求権は、1972年の国交正常化にともなう日中共同声明で放棄されており、日本政府は「解決済み」との立場です。元労働者らは1990年代以降、日本各地で企業に損害賠償を求める訴訟を起こしましたが、訴えは退けられました。ただ最高裁が2007年に「請求権は放棄されている」との判断を示す一方、「被害者らの被った精神的、肉体的苦痛が極めて大きく(中略)関係者が救済に向けた努力をすることが期待される」と、被害者救済を促す異例の付言をしてから流れが変わりました。鹿島(旧鹿島組)、西松建設、日本冶金工業の各社が、企業としての「道義的責任」などを踏まえ、被害者救済のための基金設立や「解決金」などの支払いで和解を成立させています。

 この流れの中で、三菱マテリアルも戦後70年の節目には解決しようと動いているわけです。バラバラに訴えを起こしていた元労働者側が統一交渉団をつくり、一括して解決できる状況が生まれたことも、交渉を前進させたようです。和解案に反発する団体もあるため、先行きはまだわかりませんが、一刻も早い解決が望まれます。

 この交渉に携わっている同社の社員は、当時の強制連行に関わったわけではありません。それでも、会社という組織が起こした出来事ですから、当然ながら今の社員が対応するわけですね。これからみなさんがどこかの会社に入ると、その一員として会社の歴史も背負うことになります。入社後の研修でも会社の歴史を学ぶと思いますが、採用選考を受ける段階から知っておいて損はありません。ただ、負の歴史については会社のホームページなどに積極的には載せないでしょうから、新聞記事データベースなどで検索することをオススメします。

 「歴史的責任」をめぐっては今、安倍首相の「戦後70年談話」がどんな内容になるのか、国内外で注目されています。「国策を誤り」「植民地支配と侵略」「反省」「おわび」を盛り込み、歴代政権が踏襲してきた戦後50年の「村山談話」をどう受け継ぐのかが焦点です。さまざまな意見があります。ただ、こうした問題を考えるとき、歴史的な事実を知らずに語るべきではないと思います。基本的な歴史を押さえ、何があったのかを知ったうえで考えてください。8月15日の終戦記念日に向けて、閣僚の靖国神社参拝の是非も論じられると思います。この問題については「靖国問題…歴史を知ったうえで考えよう」(2014年1月24日の「今日の朝刊」)で書きました。日本が起こした過去の戦争にみなさんが直接関わったわけではありませんし、責任もありません。でも日本国の一員である以上、その歴史は嫌でも背負っているのです。戦争も含めた歴史があって今の日本があるのですから。

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