2014年01月27日

靖国問題…歴史を知ったうえで考えよう

テーマ:政治

ニュースのポイント

 安倍首相が靖国神社を参拝してちょうど1カ月。中国、韓国は依然強く反発していて、日中、日韓関係は改善の糸口さえ見せません。首相の靖国参拝には国民の間に賛否両論がありますが、若い人の中には歴史的な経緯や事実を知らない人もいるようです。自分の意見を言う際には、出来事の経緯や相手の立場を知った上で論じないと説得力がありません。今日は靖国問題をおさらいします。

 今日取り上げるのは、27面の「ニュースの扉 北原みのりさんと訪ねる靖国神社/荘厳な本殿と ゆるいお土産/安倍さんって、私たちの合わせ鏡」です。
 記事の内容は――男女の問題や「愛国ムーブメント」をめぐり鋭い論考を発表しているライターの北原さんは、「寺社ガール」で靖国神社も時折訪れる。本殿を参拝し近代日本の歩みを展示した遊就館を見学した。安倍首相について「『日本を、取り戻す』とか、安倍さんの言うことって、実は当たり前のことで反論しにくい。感情はあおるけど、理性的な対話にならない。それって、何も言っていないに等しい。のっぺりした、陰影のない愛国心なんです」と言い、安倍晋三とは私たちでもある、と思っている。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 昨年末に首相が靖国神社を参拝した日、就活力アップ講座「朝日学生キャリア塾」(2月コース募集中)に参加していたマスコミ志望の学生に「首相の靖国参拝どう思う?」と聞いてみました。6人中5人が「日本の首相が戦争で亡くなった人を慰霊するのは当然だと思います」などと「賛成」でしたが、「靖国神社にはA級戦犯がまつられていることは知ってる?」と尋ねると、5人とも知りませんでした。朝日新聞が昨年末に若者を対象に実施した世論調査では、首相の靖国参拝への賛否は20代が賛成60%、反対43%、30代賛成59%、反対22%と賛成はほぼ同じ。ただ、A級戦犯がまつられていることを知らない人が30代の15%に対し、20代では43%に上りました。

 靖国神社は1869(明治2)年、明治政府が戊辰(ぼしん)戦争で死んだ官軍の兵士を悼むために創建され、国家神道の中心的施設でした。日清、日ロ、日中、太平洋戦争などで戦った軍人や軍で働いていた人(軍属)250万近い人がまつられています。たくさんの若者が「靖国で会おう」を合言葉に戦場に赴いて亡くなったように、国のために命を捧げた軍人を国家として「名誉の戦死」としてたたえる神社でした。戦後は国との公的関係は絶たれ一宗教法人となりました。

 戦後、多くの首相が靖国神社に参拝してきましたが、外交問題になったのは1978年に東条英機元首相らA級戦犯が合祀(ごうし)されてからです。中国、韓国など近隣アジア諸国が「戦争への反省の欠如」として批判。とくに「中国侵略は一部の軍国主義者によるもので、日本の一般国民も被害者だった」との考えに立って日本と国交正常化した中国は強く反発するようになりました。A級戦犯は米国などの連合国による戦後の極東国際軍事裁判(東京裁判)で、戦争指導者として責任を問われた人たちです。東京裁判については戦勝国による一方的で不当な裁判との批判もありますが、日本はこれを受け入れてサンフランシスコ平和条約で国際社会に復帰しました。一般国民が国のために命を落とした兵隊さんを悼んで参拝するのと、日本国のリーダーが参拝するのは、心の内が同じだとしても、外交的、国際的には「戦争を肯定した」と取られかねず、全く別の意味を持つわけです。昭和天皇はA級戦犯合祀後は参拝せず、今の天皇は即位後一度も参拝していません。A級戦犯をまつるのをやめればいいじゃないか、という分祀(ぶんし)論は政府内でも検討されたことがありますが、靖国神社が応じる見通しはありません。

 安倍首相は参拝について「国のために戦い倒れた人たちに手を合わせる、慰霊を行うのは世界のリーダーの共通の姿勢」と説明。「戦犯を崇拝する行為だという誤解に基づく批判がある。中国、韓国の人々の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」とも言いますが、相手の受け止めは違います。記事で北原さんは、「相手の気持ちを『誤解』と切り捨てる。自分が『どういうつもりか』ではなく、相手方の内在論理に思いをなすのが外交。『毛頭ない』のはコミュニケーション力の方でしょう」と批判しています。

 企業は自分の頭で考え、判断ができる人を求めています。普段から世の中の様々な出来事について、考え、意見を持つようにしましょう。でも、そのときに思いつきや感情だけで賛否や好き嫌いを言っても、相手には伝わりません。物事の経緯や事実を踏まえたうえで考え、意見を言えると、説得力が全く違います。普段から新聞を読んで、まず世の中を知りましょう。

※朝日新聞デジタルの無料会員は1日3本の記事全文を、有料会員になればすべての記事を読むことができ、過去1年分の記事の検索もできます。ぜひ登録してください。

アーカイブ

テーマ別

月別