ニュースのポイント
見ず知らずの人のところに電話をかけて、自社の商品の購入を迫るという商法があります。これを強引にやると違法になります。消費者庁などに摘発された会社は、会話マニュアルを作っていました。「ああいえば、こういう」の具体的な指南書で、会話を長引かせようという意図がはっきり分かります。内容にはウソも含まれていました。この一件から、「仕事」について考えてみます。
今日取り上げるのは、社会面(37面)の「カニ購入強要『北海道で金賞 損ない』/違法勧誘 通販会社が会話集」です。
記事の内容は――しつこく契約を迫ったり、虚偽の商品説明をしたりしていた海産物の通販会社から、購入を強いる会話マニュアルが見つかった。消費者庁によると「違法勧誘の手口は口頭で伝えられることが多く、書類などで見つかることは珍しい」という。消費者庁と関東経済産業局は9日、札幌市の海産物通販会社キョウエイと北一グルメに対し、特定商取引法違反(再勧誘、不実告知)で新規勧誘や契約などの一部業務停止(3カ月)を命じた。キョウエイへの立ち入り調査で見つかった「トークマニュアル」と呼ばれるA4で12枚の冊子には、購入を断られた際の会話例を載せていた。状況に応じた「切り返し」や「ねばり」などケースごとに記載し、いずれも購入を強制する内容だった。この2社は2013年から今春にかけて、名簿業者から購入した健康食品購入者の名簿を元に電話でカニの購入の勧誘を繰り返していて、苦情相談は全国から265件にのぼった。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
私には、電話商法に関するちょっと切なさを感じる思い出があります。数年前、会社の近くの地下街で、リクルートスーツ姿の女性に呼び止められました。「お急ぎのところすみません。私は会社の新人研修中の者です。道行く人から名刺をいただいてくるという課題を与えられています。申し訳ありませんが名刺を1枚いただけますでしょうか」と言います。とてもまじめそうな女性が必死の思いで声をかけてきたように感じて、名刺を渡しました。「悪用しないでね」とひと言付け加えました。
それから3、4カ月立った頃、職場の電話が鳴りました。とると、「覚えていらっしゃいますでしょうか。地下街で名刺をいただいた者です」といいます。「ああ、覚えていますよ」と答えると、「突然ですが、マンション購入にご関心はありますでしょうか」。少々驚いて、「あの名刺集めは、勧誘の電話をするためだったのですか。もし会社が新人のあなたにそれをさせたのなら、あまりいい会社とは思いませんよ」と言って、電話を切りました。
この勧誘の電話が見ず知らずの人からだったらすぐ忘れたでしょうが、とてもまじめそうな女性に同情して渡した名刺がきっかけだったので、強く記憶に残っています。ここからは、私の想像ですが、会社が命じた名刺集めは都会の中年以上のサラリーマン(金を持っていそうに見える?)の名簿作りに使うためだったのではないでしょうか。その名簿を元に彼女は、おそらく心苦しい思いを抱えながら「仕事だ」と言い聞かせて勧誘の電話をかけてきたのでしょう。彼女の気持ちを想像すると切なくなり、それを強いたであろう会社には怒りを覚えました。
すべての電話商法が悪いとは思いません。商品との思わぬ出会いがあって「よかった」と思っている人もいるとは思います。でも、電話商法の中には、しつこかったり、虚偽の内容を含んでいたりするものが少なくないと思います。
仕事というのは、人が喜ぶ姿を見ることでやる気が出るものです。人から迷惑がられたり、苦情がたくさん寄せられたりする仕事は、「それでも社会に貢献しているんだ」というよほど強い信念がない限り、つらいだけの仕事になるでしょう。会社選びの時には、人に喜ばれる仕事かどうか、社会に貢献できる仕事かどうか、をまず考えてみることをお勧めします。
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