ニュースのポイント
2020年東京五輪・パラリンピックの主会場になる新国立競技場を、2520億円を投じて建設することが決まりました。前回のロンドン五輪の主会場の建設費の約4倍という巨額です。迷走の末の決着だけに、この問題をめぐっては考えるべきテーマがたくさんあります。(編集長・木之本敬介)
今日取り上げるのは、1面のコラム「天声人語」です。関連記事として、総合面(4面)に「新国立『甘い認識』『お粗末』/膨らむ総工費 与野党から批判」、スポーツ面(24面)に「新国立のゆくえ・聖地さまよう㊤/折れた都知事」が載っています。
記事の内容は――英語のホワイト・エレファントは、もてあまし物を言い、欧米などでは金食い虫のハコ物を皮肉る常套句(じょうとうく)だ。日本の負の遺産の親分格になるぞと反対の声がわく新国立競技場の秋着工が決まった。国の借金ダルマの肥大を少しでも止めるべきところ、将来世代へのツケがまた増えかねない。競技場も、原発の再稼働も、安保関連法案も、いったん走り出したら止まらない。立ち止まり、異なる声に耳を貸すということが、首相とその周辺に乏しすぎる。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
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新国立競技場の計画が決まるまでには、紆余(うよ)曲折がありました。経緯を整理します。
2012年に設計の国際コンペがあり、建築家ザハ・ハディド氏の流線形のデザインが「アーチ状構造の実現は、現代日本の建築技術でしか造り得ない挑戦」などとして選出されました。総工費の目安は1300億円でしたが、改めて試算すると3000億円かかることがわかり、計画を練り直します。2014年に規模を2割小さくし、1650億円でつくる基本設計を承認。ところが、その後の試算でやはり3000億円超かかることが判明し、再見直しを進めていました。
今月7日、事業主体の日本スポーツ振興センター(JSC)が、開閉式屋根の設置は五輪後に先送りし、可動席を仮設にし、空調設備も一部見直す総工費2520億円の建設計画を決めました。スタンドをつくる大成建設、屋根を担当する竹中工務店と契約を結び、今年10月に着工、2019年5月に完成し、同年9月のラグビー・ワールドカップ日本大会の主会場になる予定です。ただ、2520億円をどこから集めるのかのメドはまだ立っていないうえ、「目標工事額」のため物価動向などで増える可能性もあります。開閉式屋根など五輪後に予定する施設整備費は、現時点の試算で約188億円としています。
「2520億円」と言われてもピンときませんよね。経済アナリストの森永卓郎さんは「生活のなかで想像できる金額なら国民のチェックの目も厳しいが、2520億円となると巨額すぎて現実感がなくなってしまう」と指摘しています。近年の夏季五輪の主会場の総工費は北京が約430億円、ロンドンが約650億円(いずれも当時の為替レートで換算)でしたから、突出した巨費であることは間違いありません。ギリシャが6月末の期限までに返せずに欧州連合(EU)を混乱させている借金の額が約2000億円です(7月7日の今日の朝刊「ギリシャが大変!何が起きてるの?どうなるの?」参照)。
少しでも金額のイメージが湧くように表を載せました。広島市のマツダスタジアムなら、なんと28個も造れる額です!
なぜ、こんな巨額が必要なのか。アーチ2本で支える特殊なデザインが主な原因です。2013年の国際オリンピック委員会(IOC)総会で五輪招致に成功した際にも、このデザインの競技場を造ることをアピールした経緯があるため、賛成派は「国際公約」だと強調しました。東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相は、朝日新聞のインタビューに「経済大国日本での2度目の夏季五輪にふさわしいものが必要」「さすが東京、という施設を造らないと今後様々なイベントを(他のアジアの国に)取られてしまう。いいものを造れば、スポーツ人だけでなく、国民や都民のためにもなる」と語っています。
一方で、長野五輪金メダリストの清水宏保さんは、朝日新聞のコラムで「今回は『コンパクト五輪』を掲げてきた。五輪肥大化にストップをかける好機だ」「『アスリートファースト』という言葉もある。五輪はアスリートのためにあり、奇抜なデザインの競技場が必要か。メイン競技場は簡素でいい。みえを張る必要はない」という趣旨のことを書きました。
ほかにも、新国立競技場問題は様々な視点を提供してくれます。「一度走り出したら止まらない」と言われる公共事業の典型とも指摘されますし、天声人語も指摘する「将来世代へのつけ回し」も大きな問題です。国民・都民の税金の使い道、五輪の「レガシー(遺産)」のあり方……などなど。これだけのテーマですから、面接でも話題に出るかもしれません。いろんな視点から、自分の意見を言えるようにしておきましょう。
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