ニュースのポイント
高崎山自然動物園(大分市)がメスの赤ちゃんザルに、英王室の王女と同じ「シャーロット」と命名したところ、批判が殺到し、園がおわびする騒動になっています。批判のほとんどは、「英王女に失礼だ」というものです。そう感じる人がいるのは分かりますが、わたしはそんなに失礼なこととは思いません。一緒にお祝いしようという気持ちも込められているように感じます。このニュースは、サルの名前にとどまらず、権威に過剰に配慮する今の日本社会を覆う空気をあらわしているように感じます。(朝日新聞教育コーディネーター・一色清)
今日取り上げるのは、社会面(34面)の「『シャーロット』許されザル命名? 英王女に『失礼』高崎山に批判殺到」です。
記事の内容は――高崎山自然動物園(大分市)がメスの赤ちゃんザル(写真下)に、英王室の王女と同じ「シャーロット」と命名したところ、批判が殺到し、園がおわびする騒動になっている。名前は公募でつけたもので、園は7日、撤回も含めて協議したが結論は出なかった。
園は例年、4~5月ごろ生まれる赤ちゃんザルの名前を募集し、票の多い名前をつけている。今年は3月27日から公募。英王室に誕生した王女が「シャーロット・エリザベス・ダイアナ」と5月4日に命名されると、5日までに寄せられた853通のうち「シャーロット」が59通で最多に。このため、赤ちゃんザルにシャーロットと名付けた。園を所有する市によると、園と市には6~7日に電話、メール、ファクス計約550件が寄せられた。6日に寄せられた意見の大半は「失礼だ」という趣旨で、園は7日、混乱をわびる文書を発表した。英王室広報は7日、朝日新聞の取材に対し、「コメントは特にありません。赤ちゃんザルにどんな名前を付けようと、動物園の自由です」と答えた。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
「失礼だ」と言ってきた人たちがどんな人かは分かりません。ただ、権威を尊重し、礼節を重んじる心を持っているまじめな人たちではないかと想像できます。
わたしは今、大学でジャーナリズムについて教えています。先日、風刺画を題材に「表現の自由はどこまで制約されるか」というテーマで学生の意見を聞きました。私は「表現の自由が基本中の基本。ごく例外的に差別表現や行き過ぎた批判は自主的あるいは法的に制約を受ける」と思っていますが、少なからぬ学生が「人が不愉快になるような表現はするべきではない」と、表現の自由をごく狭く考える意見を表明しました。風刺画に描かれるのは権威のある人がほとんどですが、そういう人やその周りの人の気持ちも考えようというやさしくまじめな考え方です。でも、それでは風刺は成り立ちません。風刺のできない社会は暗く不幸な社会だと私は思います。
最近、権威に対して配慮すべきだという空気を感じます。「護憲の演説をした作家が首相を呼び捨てにした。けしからん」とか「大学でも式典で国旗を揚げ、国歌を歌え」などという声が耳に入ってきます。私はもちろん礼節は大切だと思いますが、ただ権威があるからというだけで敬わせようという空気には反発を感じます。
みなさんも会社に入ると、権威のある人や組織と接触するようになります。身近では課長、部長、社長といった長のつく人です。あるいは、役所とか大学とか有名企業とかの社外の人と接触するときにも権威を感じるかもしれません。その時にどのような接し方をするかがとても大事になります。ひとことで言えば、「礼節は忘れず、権威にひるまず」というところでしょう。権威のある人にビビっていては、いい仕事はできません。
面接でもそうです。ズラリと並んでいるおじさんたちは偉そうで、権威を感じるかもしれません。でも、たいていは悩み多き中間管理職です。ビビらず「ありのままの自分を見てもらえばいい」というくらいの気持ちで臨めば、かえって好印象につながるものです。
権威にひるまない心を持つためには、学生のうちから「自分はなぜこの人を偉いと思うのか」とか「自分はなぜこの組織やモノに頭を下げるのか」といったことを考えておくことです。その答えが見つかれば、素直に敬意を示せばいいし、答えが見つからなければ過剰な配慮は不要ということになります。
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