2015年04月16日

「新卒一括採用」の功罪 渦中にいる君たちへ

テーマ:就活

ニュースのポイント

 大学生のうちに採用試験を受けて内定をもらい、来年4月に同期と一緒に入社する「新卒一括採用」。みなさんがいま取り組んでいるこの就活の仕組み、実は日本独特のシステムです。海外では、新卒に限らない「通年採用」が当たり前。グローバル化が進むなか、新卒一括採用の見直しを求める声が上がっています。一方でメリットもないわけではありません。渦中にいる皆さんは今の仕組みのもとで就活をするしかありませんが、新卒一括採用の功罪については知っておいてください。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、オピニオン面(17面)の「耕論 新卒一括採用の死角」です。脳科学者の茂木健一郎さんと、人材コンサルタントの常見陽平さんのインタビューです。趣旨をまとめると――
◆「画一的な仕組み、社会に損失」茂木さん 新卒一括採用の仕組みで、日本の大学生は欧米に比べ極端に抑圧されている。雇用機会は自由に与えられるべきで、日本も欧米のように通年採用にシフトすべきだ。経済成長に必要なイノベーション(技術革新)は画一的なシステムとは逆の座標にある。誰にでもとりえはあり、皆が自分を生かせる社会にするには多様性を排除する新卒一括採用の仕組みを捨てるべきだ。
◆「就職の平等 幻想振りまくな」常見さん 新卒一括採用が続いているのは、企業は一定期間に必要な人材を選べて多数採用でき、学生側も卒業後すぐに安定収入を得られる合理性があるから。入社後の人材育成を前提にした制度だ。問題なのは現状の就活のあり方。就職サイトなどで自由に応募できるため「誰にも門戸が開かれている」という幻想のもと、大手企業を落ち続けて疲れ切ってしまう学生がいる。企業は採用基準を透明化すべきだ。それぞれが「就職は平等ではない」という現実を受け入れることが諸問題の解決に不可欠だ。

(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)

就活アドバイス

 新卒一括採用は、戦後の高度成長期に、「終身雇用」「年功序列」とともに定着しました。企業にとっては、年齢、学歴などが同じレベルの学生を、同時期にまとめて採用でき、研修・教育などを一括して実施できるというメリットがあります。これに対し、欧米など海外の「通年採用」は、年に何度も採用したり、常に募集したりする方式。グローバル化にともなって、新卒一括採用は「高度成長期の遺物」「ここで失敗し卒業してしまうと復活のチャンスがない」などと批判されるようになり、数年前から見直しが議論されてきました。卒業後3年間は新卒と同じように扱う「第2新卒」を採用する企業が増え、中途採用も見直されています。ただ、新卒一括が中心である点は変わっておらず、まだまだ問題点が多いのは事実です。

 ただし、新卒一括採用にはいい点もあります。就職ナビの一括エントリーを批判して、採用試験に独自の受験料を設定して話題になったドワンゴの川上量生会長ですが、雑誌のインタビューでこう語っています。
 「『新卒一括採用』や『終身雇用』は、すばらしいモデルだと思います。『通年採用』にしたら、学生はもっと不利になる。海外では『通年採用』が当たり前ですが、若年層の失業は深刻な問題になっています。日本は『新卒一括採用』だからこそ、世界で最も『職業選択の自由』が担保されていると言えます」(「WEDGE」より)

 実際、欧州には15~24歳の失業率が50%以上の国もあり、若者の失業率が大きな社会問題になっています。日本は6.3%(2月)ですが、新卒一括採用をなくしたら跳ね上がる可能性もあります。

 もう一つ、川上会長はこうも言っています。
 「通年採用をおこなっている海外では、スキルのない人は就職できないんです。アメリカだと、採用時に見られるのは職務経歴書と大学で何を専攻したかの2つ。これだけ。将来のポテンシャルなんて、ほぼ考慮してもらえませんよ」
 
 欧米の企業が採用するのは「即戦力」の人材です。このため、仕事にすぐ役立つことを専攻しているか、企業などのインターンシップで経験を積んだ学生、あるいはすでに働いた経験がある人でないと採用されません。一部の優秀な人にとってはチャンスが広がるでしょうが、能力を求められる厳しい仕組みでもあります。

 でも、日本の新卒一括採用は違います。仕事に役立つ具体的なスキルや実績はまったく求められず、「将来の可能性」だけで採否が判断されます。そうして採用された新入社員は、研修や社内教育、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)などで、ゼロから仕事を教えてもらえるのです。悪いことばかりじゃないでしょ?

 いずれにせよ、みなさんは今の仕組みの中で、よい就活をするにはどうしたらいいかを考えましょう。その一つが、常見さんが言う「『就職は平等ではない』という現実を受け入れること」だと思います。誰でもどの企業にも応募することはできるし、多くの企業は「大学名は関係ない」と言います。でも、人気企業は入社実績のない大学の学内説明会にはあまり参加しないし、リクルーターも実績のある大学に限るケースが多く、すべての大学生が同列でスタートする訳ではないのです。具体的には、自分の大学の先輩の具体的な就職先企業を知ること。大学のキャリアセンターに行けばわかりますよ。

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