ニュースのポイント
ネット通販大手の楽天が、苦戦している電子書籍事業で新たな手を打ってきました。2012年にカナダの電子書籍事業会社コボを買収して本格参入したものの、iPadなどタブレット端末の普及で専用端末の売り上げは伸び悩み、個人向け配信事業でも米アマゾンの一人勝ちを許しています。楽天は買収や出資などによってカード、プロ野球、金融、航空と次々と事業を広げてきました。さて、今回の買収にはどんなねらいがあるのでしょうか。キーワードは「将来性」です。(副編集長・奥村 晶)
今日取り上げるのは、経済面(12面)の「楽天、電子書籍会社を買収/図書館向け 米最大手/品ぞろえ増やす狙い/「米アマゾンと勝負」です。
記事の内容は――楽天が、図書館や学校の利用者に貸し出す電子書籍を提供する米オーバードライブを、4.1億ドル(約492億円)で買収すると発表した。4月中に完全子会社化する。同社の世界的なネットワークを生かし、楽天の子会社コボが扱う電子書籍や専用端末を売り込むねらいに加え、出版社や著作権者と紙の本の電子書籍化を交渉する際、図書館向けと消費者向けを一緒に行うことで調達力を高め、品ぞろえを増やすねらいもある。
(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版から)
就活アドバイス
電子図書館の仕組みは、利用者が普段利用している図書館のIDなどを使い、電子書籍会社のサイトから借りたい電子書籍をダウンロードするというものです。利用者は図書館に行かなくても、自分の携帯端末で無料で読めるというメリットがあります。「貸出期間」が過ぎると自動的にデータは消えるので、図書館側も返却などの手間が省けます。電子書籍会社は出版社から貸し出し用の電子書籍を調達し、図書館との契約で1冊ごとに同時に借りられる人数を決め、その人数分の利用料を図書館から受け取ります。紙の本の出版社が図書館に本を売って儲けるのと構造はほぼ同じ。「貸し出し中」の人気作品を待ちきれない人を電子書籍が買えるサイトに誘導することもできます。
楽天が買収したオーバードライブの場合、北米や欧州、南米など約50カ国で5000の出版社が提供する250万以上のコンテンツを扱い、3万を超える図書館、大学を顧客に抱えています。利用者は2100万人。この業態では最大手です。今後は教科書など教育分野への参入も視野に入れています。
楽天のように、一つの事業にとらわれず、幅広く事業を展開することを多角経営といいます。事業の一部が不振でも、その他の事業が好調であればその損失をカバーできます。赤字になる事業をそのまま放置するのは企業にとって得策ではなく、日本の高度成長期を支えてきた家電メーカーは工場閉鎖や従業員のリストラなどで赤字部門から「撤退」し、利益率を高める方向に動いています。しかし、楽天は苦戦部門をあえて「強化」する方向に舵を切りました。楽天の経営方針の“強気さ”がよくわかりますね。
電子書籍事業も2014年にソニーが海外市場から撤退するなど淘汰が進んでいます。電子書籍先進国の米国では書籍販売の電子版比率は3割に近づいてきましたが、国内の書籍販売の電子版比率はまだ1割以下です。加えて、日本で電子書籍を貸し出す公立図書館は約30館と全体のたった1%です。仕組みそのものは利用者と図書館双方にメリットがあるわけですから、「伸びしろ」はあるでしょう。現在の市場の「小ささ」を「将来性」と楽天は判断したわけです。
あとはコンテンツを電子書籍用に提供する著作権者や出版社のメリットをどう打ち出すか。その難題をクリアすれば、大化けするかもしれません。楽天などネット通販を志望する人だけでなく、出版社、書店、教育関連事業、さまざまな業界にかかわる取り組みです。ぜひ注目してください。
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