2016年10月19日

テレビ番組、ネットに同時配信…背景・狙い・課題は?

テーマ:メディア

ニュースのポイント

 東京五輪・パラリンピック開催の前に、どこにいてもテレビ番組をスマホやパソコンで見られるようになりそうです。総務省が、テレビ番組をインターネットで同時に配信する「ネット同時配信」を2019年にも全面解禁する方針を固めました。みなさんのような若い世代で進む「テレビ離れ」を食い止めようという狙いです。ネット同時配信では、NHKは全国で同じ内容を見られるようになる一方、民放は各地域ごとに地元の放送局の番組を見られる形式になりそうです。「テレビとネットの融合」の背景や課題をわかりやすく解説します。(編集長・木之本敬介)

 今日取り上げるのは、1面トップの「TV ネットで同時配信/放送法改正へ/19年にも全面解禁/NHK受信料 焦点」と、総合面(7面)の「海外動画大手に対抗/地域限定配信で地方局に配慮/増える『TVよりスマホ動画』」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。

背景に「テレビ離れ」

 今でもワンセグ放送を受信できるスマホならテレビ番組を見ることができますが、「ネット同時配信」が実現したら、ネットに接続すれば、ワンセグよりずっときれいで安定した画像を誰でも見られるようになります。

 総務省がネット動画同時配信を進めるのは、若者を中心にテレビよりスマホの動画を好む人が増えているためです。NHK放送文化研究所の2015年の全国調査で、20代の16%がテレビを「ほとんど、まったく見ない」と答えました。全体の視聴時間も1985年の調査開始以来、初めて短くなる傾向へ転じ「テレビ離れ」が進んでいることがはっきりしました。一方でネットに毎日接する人の割合は、60代以下の各年代で伸びています。

 みなさんの中にも、しょっちゅうユーチューブを見ている人がいると思います。昨年、日本に進出した米国発のネットフリックスなど海外の動画配信サービスが利用者を増やす一方、テレビを持たない若者が増えているといいます。

「クールジャパン」のため

 テレビを見る人が減るとテレビ局は困りますが、なぜ政府が乗り出すのでしょうか。記事によると、総務省はテレビ業界がじり貧に陥ればソフトを海外展開する「クールジャパン」戦略に影響すると心配しています。総務省の幹部は「テレビ局は日本のハリウッド。ネットの世界に打って出て勝ち抜いてほしい」と、米国にある世界の映画制作の中心地になぞらえて語っています。マンガやゲーム、日本食などと並ぶクールジャパンの核として、アニメやドラマのほかバラエティー番組のノウハウなどに期待し、質の良い番組を作り続けることが必要だと考えているわけです。

民放、NHKそれぞれに課題

 テレビのネット同時配信は技術的には今でもできるのに、災害時などに限定してきました。民放、NHKそれぞれに課題を抱えているからです。今日の記事から、課題や対応を抜粋します。
◆民放のローカル局は、東京のキー局がつくった番組に加えて各局独自の番組も流し、CMも地方局ごとに集めて収入源にしている。キー局の番組がそのまま全国で見られるようになれば、地方局は視聴者を失い、経営が立ち行かなくなる恐れがある。このため、各地方局もネット配信を行い、地域ごとに見られる放送局を限定する方法を検討する。総務省によると、技術的にも法的にも可能。
◆NHKは関東圏の番組を全国一律で配信する予定。ネットで番組を見る人からも一定の受信料を取る方向だが、パソコンやスマホを持っているだけでは対象にせず、料金を払った人だけが番組を見られるようにする方法を検討
◆テレビ番組出演者らとの著作権契約は放送用に限っているため、ネット配信には契約を結び直す必要がある

 高市早苗総務相は同時放送開始に向けた課題について、有識者会議の「情報通信審議会」に諮問すると発表しました。2018年夏までに最終答申を出すように求めます。審議会では、テレビとネットの著作権契約を一体化させるためのルールづくりも進めます。
 テレビは身近な話題です。メディア志望以外の人も今後に注目してください。

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