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韓国ロッテグループが秘密の政治工作用資金を不正に捻出したとされる疑惑で、ソウルの検察が、創業者の辛格浩総括会長(日本名・重光武雄)や長男の辛東主氏(同・重光宏之)、次男の辛東彬会長(同・重光昭夫)らを在宅起訴したとする捜査結果を発表しました。ロッテは、日本でも多くの事業を展開してるので、日本への影響もありそうです。この問題は、創業者が93歳と高齢になり、後継者をめぐる内紛がきっかけになっています。最近、創業家がからんだ騒動が表面化する会社が多くなっています。強すぎる経営者がいると、企業の内紛につながりやすいのかもしれません。
(朝日新聞社教育コーディネーター 一色清)
今日取り上げるのは、3面の「ロッテ創業者ら在宅起訴 政界工作遠い解明 韓国検察」(東京本社発行の朝日新聞朝刊最終版)です。
(写真は、ソウル中心部にあるロッテホテルとロッテ百貨店。韓国のロッテは、化学からデパートまで幅広い事業を展開しています)
「創業家の乱」が今年相次ぐ
創業家を巡る内紛と言えば、昨年、創業者の父と後継者の娘が経営権を巡って激しく争った大塚家具が思い出されます。結局、娘が経営権を握り、父は別の家具店を開きました。
今年に入ると、似たような内紛がいくつもの有名企業で起こっています。創業家が大株主の地位を使って、現経営陣にノーを突きつけたケースには、出光興産、セブン&アイホールディングス、セコム、クックパッド、サンリオなどがあります。
出光は、昭和シェル石油との合併に創業家が反対し、合併のメドが立たなくなっています。セブンは創業者ではない鈴木敏文社長が息子を後継者にしようとしていると創業家が思い、解任に動きました。セコムは、創業家が息子を社長にするため強引に経営陣を入れ替えたと見られ、反発が起きています。クックパッドは、創業者が中興の祖である経営者の経営方針に異を唱えて解任しました。サンリオは、88歳の創業社長が次期社長候補と目されていた常務を解任し、20代の孫を取締役に据えました。
いずれも「創業家の乱」と呼べるケースです。
(写真は、大塚家具の創業者が、埼玉県春日部市に新しく作った「匠大塚」。近くに大塚家具のショールームがあり「父娘対決」が話題になっています)
大戸屋は「創業家への乱」
逆に「創業家への乱」のケースもあります。大塚家具もそうですが、今年に入っては大戸屋で起こっています。
大戸屋の創業者は昨年57歳で亡くなりました。創業者はいずれ長男を後継者にしようと考えていたようですが、早すぎた死で予定が狂いました。社長亡き後は、創業家でない経営者になり、創業家につながる役員を総入れ替えしました。常務だった長男も辞任に追い込まれました。創業者の妻と長男の遺族側は大株主として経営陣に強く反発していて、決着はついていません。
(写真は、東京都内の大戸屋。1958年、池袋で開いた食堂が発祥で、現在は日本全国のほか、タイ、中国、シンガポールなどにも出店する一大チェーンとして親しまれています)
最近、内紛が多い理由
最近、どうして創業家と経営陣との内紛が多いのでしょうか。おそらく「会社は誰のものか」という考え方が変わってきたためではないでしょうか。
かつてなら、会社は創業家のものと当たり前に考えられ、経営者の世襲も当たり前でした。それが、「上場企業であればすべての株主や関係者を視野に入れた統治が必要」という考え方にかわってきています。そのあたりで創業家と経営陣との考え方にズレが出てくるわけです。
一方で、経営陣も昔のように自由にはできなくなりました。会社とのつながりの薄い社外取締役が義務づけられ、おかしな人事などはチェックされます。創業家が何でもやりたいようにできる時代でなくなったわけです。
民主的かどうか
いずれにしても、内紛のある会社は不安定です。これから内紛が起こるかどうかの見極めは難しいと思いますが、ヒントはあります。そのひとつは、「あまりに強い経営者」(創業者でなくても)の存在です。強い経営者がいる会社は、強力なリーダーシップで大きく成長する魅力的なところも多くあります。一方で、どんなに優秀な人でも老いると判断を間違えることがあります。わが子可愛さからおかしな人事をすることもあります。そのときに経営者に異論を言って聞き入れられるような民主的な会社でないと、経営者が衰えたり、亡くなったりすれば、不満が噴き出ることになります。会社もある程度民主的でないと、長期的にはリスクがあるのだと思います。こうした会社の雰囲気は、OB・OG訪問などで社員にじっくり話を聞けば感じ取れるものです。直接、社員に話を聞くことが大切です。
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