2025年11月06日

「サプライチェーンのつながり」に注目して企業研究を!【2026年版『会社四季報 業界地図』活用法 その3】

テーマ:業界研究

 就職活動では、とりわけスタート時期に関しては志望業界をなるべく広げたほうが、自分とフィットする企業をみつけるためにも、早々に手駒をなくすリスクを避けるためにも望ましいやり方です。それでは、どうやって志望業界を広げたらよいのでしょうか。『会社四季報 業界地図 2026年版』(東洋経済新報社)の松浦大編集長(写真)に、同書を活用した志望業界の広げ方を聞きました。知られざる優良企業がたくさんあるBtoB業界へのアプローチにも効果的です。(全3回の3回目)(編集部・福井洋平)
その1その2/その3)

〈ポイント1〉業界の「タテ」と「ヨコ」のつながり意識する

 より深く業界研究をしてみたいと思った方にすすめているのは、業界の「タテ」と「ヨコ」のつながりを意識した読み方です。

 気になる業界があったとして、そこだけを就活の対象にしては興味関心が広がらず、自分にとってよりよい会社を見つけられないかもしれません。関心を広げていく方向性が「タテ」と「ヨコ」です。

「タテ」は、いわゆる「サプライチェーン」のことです。サービスやモノをつくるためには原材料が必要ですし、モノを売るためには卸売り、小売りが必要です。このようにモノやサービスが消費者の手に渡るまでの「原材料→メーカー→卸売→小売」といった業種のつながりのことをサプライチェーンといいます。「ヨコ」はそのほかの関連業界のことです。

 自分が志望する業界をチェックするときは、「タテ」「ヨコ」につながっている業界もあわせてチェックするとよいです。たとえば食品業界を志望する場合、原料となる食材をつくる農畜産業や漁業、流通を握っている専門商社、食品を販売するスーパーやコンビニエンスストアなどの小売業者、外食産業といった「タテ」のつながりがあります。

 働き出してからも、こうした「タテ」「ヨコ」の構造が頭に入っていると、きっと仕事の役に立つでしょう。

〈ポイント2〉BtoB企業をチェックしよう

 すべてのタテヨコのつながりをチェックする必要はありませんが、志望業界といくつかの関連業界を見比べて、年収が高いのはどちらか、今後の成長力はどうか、口コミの内容は自分にあっているかなどを調べ、視野を広げるきっかけにしてほしいです。

「業界地図」では2026年版からタテ、ヨコのつながりをより強く意識できるように、業界ごとのつながりを載せた「業界リンク」の内容をアップデートし、「仕入先」「販売先」「関連業界」とより詳細な記載を始めました。

 たとえば新聞社や出版社であれば、製紙会社から紙を買う、印刷所で印刷してもらう、新聞であれば販売店を通して各家庭に配られる。出版であれば、専門商社の取次(とりつぎ)を通して書店に並ぶ。というそれぞれのサプライチェーンがあります。個々の業界をすべて解説するのは難しいのですが、一部の業界で、できる限りこうした仕組みをイメージできるように業界リンクを整理しました。

 就活生には、BtoB(Business to Business=企業間取引、いわゆる法人向け)企業に目を向ける重要性をお伝えしています。就活生の興味は、人目に触れやすいBtoC(Business to Consumer=消費者向け取引)企業のほうが高いと言われています。

 ただし、日本の産業規模が1100兆円あるうちBtoB企業は42%、460兆円を占めているのに対して、BtoC企業は26%で300兆円です。規模だけでなく、年収でも、BtoCの小売りや外食よりも、BtoBの製造業や金融の方が高いケースが少なくありません。

 先ほど説明した、業界同士の「タテ」「ヨコ」のつながりなどを意識しながら、ユニークなBtoB企業を探してみてください。

就活生へのメッセージ

 どういった業界に注目すべきかは、就活生によって変わります。成長力のある業界はもちろん、成長力がなくても地元で働きたい、海外で働きたいなど、自分の条件にあった業界に注目するという選択もあります。

 業界によっても、大手は海外赴任があるが中堅中小は海外赴任がないなど、条件は異なります。

 企業の採用ページや働く先輩のコメントにはよいことしか書いていないかもしれません。一方で、企業や業界の噂話やクチコミなどは悪い話ばかりかもしれません。どちらにも多少の真実は含まれており、よく吟味することが大切です。またほか企業や業界と比べて「書かれていないことは何か」を整理してみるのもよいかもしれません。

 就活では、いっぱい悩んでください。就活でたくさん悩んで、もがいて、自分なりの答えを見つけて欲しいと思っています。

 というのも、働き始めてからも悩みます。この仕事を続けていても大丈夫か、自分はちゃんと成長できているか。人間関係、締め切り、家庭と仕事のバランス…。いずれも、たくさん悩んで、「自分なりの答え」を決めて、前に進み、場合によっては責任を負わねばなりません。

 古くさい考えですが、就職すれば皆さんも社会の一員で、就活はそのための通過儀礼です。まずは就活で大いに悩み、「数ある選択肢のなかから、自分の答えを見つける」という経験してほしいです。きっと就活で悩んだ経験は、社会に出てからも活かせると思います。

 そして、もし皆さんが働き始めて、よく知らない業界のことを調べたり、より視野を広げて何かを考えたりする必要が出てくるかもしれません。そのときに「四季報の業界地図があったな!」と思い出していただき、手にとっていただければ、編集部としてこれ以上の幸いはありません。

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