2024年09月11日

【業界研究のための「業界地図」徹底活用法1】目次から「業界深読み」、隅々まで目を通して

テーマ:業界研究

 就職活動をするうえで欠かせないのが「業界研究」です。業界研究といっても何から始めればいいか悩んでしまうかもしれませんが、ぜひおすすめしたいのが「業界図鑑」といわれる書籍に目を通すことです。

 何種類か出版されている「業界図鑑」ですが、なかでも東洋経済新報社が毎年8月に出版している『会社四季報 業界地図』は年間約20万部発行され、類書の中でもトップシェアを誇るシリーズです。就活生のほか、投資家にも愛用されている同書の許斐健太編集長(写真)に、同書の効果的な使い方をうかがってきました。(全3回)
(編集部・福井洋平)

まずは世の中にどういう業界があるかをざっくり知る

 就活の理想は、自分にぴったりあう企業をみつけることです。しかし、いま自分が知っている企業の中から探そうとするのは得策ではありません。日本には現在、約340万の企業があり、大企業(※)に限っても約1万社が存在しています(中小企業庁調べ)。外国系の企業も含めれば数はさらに増えます。

 いまみなさんが知らない企業の中には知名度は高くないが世界トップシェアをほこる企業、今後の成長が見込める企業、そして何よりも自分のやりたいことができる、自分にぴったりくる企業が埋もれている可能性が高いのです。そう考えると、まず世の中にどういう業界があり、どういう企業があるのかをざっくり知って、選択肢を大きく広げることがよりよい就活を進める業界研究の第一歩と考えられます。そのために最適なツールが、「業界図鑑」系の書籍です。

※中小企業庁による「大企業」の定義は業種によって異なる

全193業界をコンパクトに図解

 東洋経済新報社が毎年出版している「会社四季報 業界地図」は、全193業界(2025年版)ごとに企業などのプレイヤー、勢力図、プレイヤー同士の提携関係、市場規模、今後のトレンドなどをコンパクトに解説した本です。全上場企業を取材し、投資家のバイブルとも言われる投資情報誌「会社四季報」の担当記者が業界の解説を担当。同種の本は他社からも出ていますが、東洋経済版がシェア75%程度を占めているそうです。
 
 全上場企業が掲載されている「会社四季報」は約2000ページと分厚く各種指標も細かく掲載されていますが、「業界地図」は320ページでオールカラーと読みやすく、世の中の企業をざっくり知るには最適のつくりといえます。業界研究に役立てるための使い方と本書の特徴をまとめてみました。

企業間の関係も一目でわかる

(『業界地図 2025年版』より引用)
①目次を見て、世の中の流れやいまどんな業界があるかを知ろう
 8月に発売された最新版の『業界地図 2025年版』は全部で193の業界が掲載されています。冒頭には「AI」や「MaaS・ライドシェア」「リニア新幹線」「スポットワーク」など、今年注目の9業界が特集されています。まずはここを見て、いま話題の分野でどういった企業が動いているのかをチェックすると面白いかもしれません。最新版からは、米中や日本の各地域の注目企業も新たに特集ページとして設けられています。

 業界は、「情報通信・インターネット」や「自動車・機械」など12の分野に大きく分けられています。メーカーから金融、サービス業、芸能プロダクションから大学、病院グループ、宗教団体に至るまで網羅されていることが特徴です。業界名を追うだけでも、自分が知らない、接したことがない業界がたくさんあると知ることができます。

②気になる業界に、どんな企業があるのかを知ろう
 「業界地図」では1つの業界につき半ページ~2ページをつかい、どのプレイヤー(企業)が業界でどのくらいのシェアを占めているかが視覚的にわかるように配置されています。また、企業間に資本関係がある場合は赤線で、資本関係はないが業務上手を組んでいる業務提携の関係は青線で示されているため、企業間の関係も理解しやすくなっています。

 業界によっては、さらに細かいカテゴリーも示されています。たとえば「証券」のページでは、野村ホールディングスや大和証券グループ本社は「独立系大手」、みずほ証券やSMBC日興証券は「メガバンク系大手」、楽天証券やSBI証券は「ネット証券」とカテゴリー分けされています。これも、企業の理解を深めるためには重要な情報です。

「もうけの仕組み」「業界深読み」をチェック

(『業界地図 2025年版』より引用)
③気になる業界のトレンドと「もうけの仕組み」を知ろう
 右下には、今年と来年のトレンドが天気予想の形で示されています。たとえばいま注目の業界である「AI」は2024年後半、2025年とも「快晴」、人手不足が続く介護業界は両方「曇り」となっています。

 左側には業界を理解するためのデータを並べています。業界全体の売り上げの推移や、業界の情勢がわかるデータ、業界を理解するためのキーワード、おすすめウェブサイトが載っています。注目したいのが「もうけの仕組み」というコラム。業界によっては、その業界の企業が収益をどのようにしてあげているのか、仕組みが図解されています。前述の「介護」の場合、介護サービス保険料の9割は保険料と税金のため、公的保険に大きく依存していることが示されています。もうけの仕組みを知ることで業界の理解がより深まり、どういった人材がその業界で求められているかの参考にもなります。

④「業界深読み」でさらに詳しくなる
 主要業界については「業界深読み」というページをつけています。

 たとえば2024年版に掲載されていた「鉄鋼」については、かつて10社以上あったメーカーがいまは高炉3社に集約されてきた過程や、10年前の時価総額と現在を比較したデータが掲載されていました。高炉メーカーに比べて鉄スクラップを原料とする電炉メーカーのほうがここ10年での時価総額の伸び率が大きくなっています。これは、電炉のほうが高炉よりも排出するCO2の量が少なく、脱炭素の流れで評価されるようになってきたためです。
 「就活生が経済ニュースを勉強しようとしても、たとえば高炉と電炉の違いといった情報は日経新聞などにはいちいち載っていません。この本ではそういった各業界の基本知識からわかるように、情報を載せています」(許斐編集長)

 また、「働き方」が紹介されている業界もあります。2025年版の「半導体」深読みページでは、各企業の平均年収や残業時間、男性育休取得率のランキングのほか、「コンプライアンス意識は高いと思う」「やり取りの中で根底にある男社会の組織風土を感じることがある」といった口コミも紹介されています。ここも、志望業界を考えるうえでは貴重なデータになるでしょう。年収については冒頭に業界の40歳平均年収ランキングが特集され、各業界のページでも主な企業の平均年収が掲載されています。

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